近年、ブラジルの文化施設が相次いで大規模火災に見舞われている。2015年にサンパウロの州立ポルトガル語ミュージアムが半焼。18年には、かつてブラジル皇帝の宮殿でもあったリオデジャネイロの国立博物館が全焼した。そして今年7月末には、国立映画保存協会の倉庫が大規模火災に遭い、収蔵する映画のフィルムなどを損失した。いずれも安全管理の不備が招いた火災であり、その都度、市民やメディアは歴史や文化を大切にしない国の体質を嘆き、批判してきた。
そんな中、ポルトガル語ミュージアムが今年7月にリニューアルオープンしたことが喜ばしい話題として報じられた。カステラ、バッテラ、歌留多、金平糖など16世紀の南蛮貿易を通じて日本語になった言葉があるのに加えて、1990年代以降の日系ブラジル人の出稼ぎにより日本でもそれなりに馴染みのあるポルトガル語だが、実は世界で7番目に話者人口の多い言語で、その数は約2億3400万人を数える。南半球に限れば、ブラジルの人口が多い故に、ポルトガル語話者が最多だ。言語の博物館とだけ聞けば堅苦しいが、映像と音声を多用したインタラクティブな展示方法により、年齢に関わりなくポルトガル語とその言語圏の魅力が感じられる内容となっている。
著名な作家やポルトガル語にまつわる内容をテーマに随時行われる企画展は、キュレーターが自由な発想で描く世界観が、まるで現代アートの展覧会のように刺激的だ。再開にあたり新設されたスペースの中では、各地の市民がそれぞれの日常や思いを語る姿を映した「話す(falares)」のコーナーが、広大なブラジルの多様なポルトガル語を見聞きすることができて興味深い。
多様な先住民に加えて、各国移民とその子孫が織りなすブラジルにおいて、ポルトガル語は国家統一の要であった。また、ブラジルはポルトガル語圏唯一の大国として圏内諸国から常に高い期待が寄せられていれる。国内、圏内をつなぐポルトガル語の価値を守り、広める唯一のミュージアムだからこそ、くれぐれも火の用心には念を入れてもらいたい。