フェラーリが手がけたハイブリッド「SF90」が、ひと味もふた味も違う理由

  • 文:小川フミオ  写真:Ferreri Japan提供

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スーパースポーツカーもついにハイブリッドの時代に突入。2019年5月にイタリアで発表され、ファンが待ち焦がれていた「フェラーリSF90ストラダーレ」に、21年9月にようやく試乗が出来た。このモデル、プラグインハイブリッドで話題を呼んでいる。

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フェラーリでハイブリッド。と聞いてびっくりする読者もいるかもしれない。でも、外部充電可能なプラグインハイブリッド車の体験があるひとなら、発進直後から大トルクを発生するモーターによる力強い加速感覚はよくご存知のはず。

フェラーリにとって、ハイブリッドは初めての試みでない。2013年に「ラ・フェラーリ」というハイブリッド車をごく限定的に発売した経験がある。いっぽう、競合のマクラーレンも、さいきん「アルトゥーラ」というプラグインハイブリッドのスポーツモデルを発売したし、ランボルギーニは24年までにラインナップをすべてプラグインハイブリッド化すると発表している。

SF90ストラダーレのすごさは、まず出力だ。エンジンの最高出力は574kW、前後に搭載されるモーターは217kW。2つの、ことなるパワーソースの出力を合算して、イタリア馬力に換算すると、1000馬力(cv)。純粋なエンジン車でここまで出力を絞り出すのは、たいへんだ。

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SF90のために専用設計された3990ccV型8気筒ガソリンエンジンを、キャビン背後、べつの言い方をすれば後車軸前に搭載。いわゆるミドシップだ。電気モーターは、前に2つ、後ろに1つで、計3基。やや重めのアクセルペダルを軽く踏み込んだとたんに、猛烈なダッシュを見せる。

ただしそれはステアリングホイール右側に備わる回転式の「マネッティーノ」なるドライブモードセレクターで「レース」なるサーキットモードを選んだばあい。

「市街地ではこのモードを推奨」と日本法人のフェラーリジャパンがいう「ウェット」(濡れた路面)モードや、「スポーツ」モードでは、意外なほど洗練されたパワーの出かたで、混んだ市街地でも、パワーを持てあまして、ぎくしゃくしたりすることなく走行できる。

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いっぽう、ステアリングホイールの左側には、タッチ式の、もうひとつのセレクターがそなわった。これがSF90の特徴だ。そこでは、電気走行モード、ハイブリッドモード、エンジン走行モード、そして、性能をフルに引き出すパフォーマンスモードが選べる。

ハイブリッドモードを選ぶと、約25キロとメーカーではしているモーターでの走行が優先され、バッテリーが規定値より減るとエンジンがかかる。欧州のプラグインハイブリッドはだいたいこのタイプだ。駆動用バッテリーは完全にゼロにならないため、前輪は必要に応じて駆動力を路面に伝え、4輪を使った走行特性に変化はないという。

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EV走行だけで走れないと、早朝のゴルフのとき自宅から出ていきにくい、なんてときのために、車庫にしまうまえに、一定距離をチャージモードで走っておけばよい。

もちろん、プラグインハイブリッドの最大のセリングポイントは、サーキット走行、とフェラーリではする。そもそもフェラーリは、グランプリマシンの製作と、レースでの勝利を目的として企業活動を続けてきた。量産スポーツカーは、レースのための資金をかせぐために作る、なんて言われたりしていた。

それでも、ジェントルマンドライバーと言われたモータースポーツ好きの富裕層は、グランプリマシンはムリでも、フェラーリのスポーツカーを買って、それをチューニングして、さまざまなレースに出走するのを楽しんできた。

レースを走れるスポーツカーづくりが、フェラーリにとって、もうひとつのDNAであることは、メーカーじしんがなにより承知。今回のSF90ストラダーレも、たんに審美性の高いボディをまとった、速いプラグインハイブリッド・スポーツカーにとどまっていない。

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ゆたかな曲面で大きく張りだしたリアフェンダーに近づき、合成樹脂製の透明なエンジンカバーを開けると、4リッターV8エンジンが見える。フェラーリはいまでもエンジンを美しく見せることが上手なメーカーで、赤い結晶塗装でカムカバーを塗る伝統を守っている。それもよく見えないほど、エンジンは下のほうに搭載されているのに驚く。

フライホイールを小さくして低重心化に成功したとフェラーリでは説明する。それが操縦安定性に貢献しているのだ。ボディ後端には「シャットオフガーニー」なる画期的な空力付加物が装備された。電動で角度を変え、車体上面の空気の流れを操作。車体を地面に押しつけ走行安定性を高めるためのダウンフォースを生む働きを持つ。

車体各所には、おおきな空取孔が設けられているのも、まさにレースを前提にした設計だ。ひとつは、冷却のための空気。エンジンやブレーキをはじめ、大きな熱を発するハイブリッドシステムにとって、効率よい冷却は重要だ。

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同時、フロントから採り入れた空気を、一部はタイヤハウスに入れてブレーキディスクを冷却、一部はダウンフォースを生むために使う。そしてそのあと空気がきれいに抜けて、車体から剥離していくよう、空力的な流れが考えられている。

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試乗したクルマには、さらに、「アセットフィオラノ」なるサーキット走行のためのパッケージが装備されていた。「 マルチマチック・ショックアブゾーバー」と呼ばれるスポーツダンパーをはじめ、リアスポイラー、炭素樹脂製のドアパネルとアンダーボディ、チタンのスプリングとエグゾーストライン、それに、専用開発のミシュラン製タイヤ「パイロット・スポーツ・カップ2」などで構成される。

たしかに乗り心地はやや硬めである。でも不快なほどの突き上げはない。第二東名を走ったときは路面に吸いつくようだった。エンジンは回転を上げていくと、乾いた中音と高音が混ざった音を大きく聞かせてくれ、加速のするどさは、みごとというしかない。

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エンジン回転が1500rpmほどで充分、交通の流れに乗れる、というか流れをリードできる。ときどき刺激が欲しくなれば、ステアリングホイールの背後にそなわったパドルシフトを使ってダウンシフト、つまり低いギアをマニュアルで選べばよい。

8段のギアボックスは、さすがスポーツカーだけあって、ギア比がかなり接近している。シフトアップした際に、ギア比が高すぎてトルクが落ち込んでしまってはレースで速く走れないからだ。そこで3つぐらいギアをポンポンッと落とすと、エンジン回転が4000rpmぐらいに跳ね上がる。そこからが真骨頂なのだけれど……そういうのを楽しめる場所は広いサーキットをおいて、ほかにないだろう。

コクピットは2人乗り。小さな荷物ならシートの後ろに押し込める。シートは、オプションの炭素樹脂で成型されたレーシングタイプ。革がかぶせられているだけ、というシンプルな構造であるものの、座り心地は意外なほど快適で、500キロぐらいのドライブでも疲労感はとても少ない。

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メーター類はデジタルで、操作の多くもデジタル。だいたいにおいて視認性が高く、使いやすい。ただし斜め後方の死角が、フェラーリとしては異例ともいえるほど、制限されている。

欲しいのは、隣りの車線の死角にいる車両の存在を教えてくれる装置、あるいは、ウィンカーを出したときだけでいいので、隣りの車線の後方を映し出してくれるカメラシステム。個人的な経験をもとにしていうと、韓国のヒョンデがSUV「ネッソ」などで使っている後方視認システムが合っていそうだ。

JBLプロフェッショナルによるオーディオシステムも用意される。ブルートゥースかUSB(A)で手持ちのスマートフォンをつなげるので、音楽を聴いてのドライブも可能だ。ただし音を聴かせるのがコクピット設計の主目的ではないようで、エンジンが回っていると、音楽が聞こえにくい。しようがないと思うしかないだろう。

欧米でますます厳しさをますCO2規制。一般車両の燃費よりも、商業車をふくめた運輸システムや、バッテリー製造や塗装工程などから出る炭素ガスの量こそ改善すべき、という説はある。それでも、規定のCO2排出量を上回る自動車を生産するメーカーには高額な税をかけるといわれているだけあって、フェラーリでもいち早くプラグインハイブリッドに乗りだしたわけだ。

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SF90ストラダーレを体験すると、フェラーリのハイブリッドは、公道では真価が味わえないほどの高性能。これはCO2削減の”オマケ”などではなく、クルマの”未来”における、ひとつの可能性なのだ。そのよき証明である。価格は5340万円から。ボディ内外装をふくめ、目的に応じて選べるオプションもさまざま用意されている。

フェラーリSF90ストラダーレ
●ディメンション(全長×全幅×全高):4710×1972×1186mm
●パワートレイン:3990ccV型8気筒ガソリンエンジン+電気モーターによるプラグインハイブリッド
●最高出力:574kW(エンジン)+217kW(前後モーター)
●最大トルク:800Nm(エンジン)+85Nm(Fモーター)+266Nm(Rモーター)
●駆動方式:4輪駆動
●車両価格:¥53,400,000〜

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