東京都写真美術館で開催中の『リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真』

  • 文:はろるど

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ポリクセニ・パパペトロウ『来訪者』〈世界のはざまで〉より 2012年  © Polixeni Papapetrou, courtesy of Michael Reid Gallery, Jarvis Dooney Galerie 自らの娘をモデルに仮装させて撮影したシリーズ。空想的な世界観が魅力だ。


「逆にできる」や「元へ戻せる」を意味し、裏表兼用の衣服を指す「リバーシブル」。写真は過去と密接に結びついているメディアだが、裏表にある未来の輪郭も見え隠れしているのではないだろうか? そうした観点から日本とオーストラリアの現代写真家を紹介する展覧会が、東京都写真美術館にて開かれている。両国4名づつ、計8名のアーティストによって構成され、作品数は76点と見応えのある内容だ。

あまり見る機会の多くないオーストラリアの写真家に着目したい。ブリスベン生まれのローズマリー・ラングの『effort and rush #1』は、幻想的な風景が魅惑的な作品だ。動と静、重みと軽快さといった相反する要素を1枚の写真に落とし込むラングは、有機的に溶け合うような風景のイメージを作り上げている。ブレて揺れ動くような木立はまるでターナーの絵画のようだ。また4つの部族の先住民族の血を引くマレイ・クラークは、『ロング・ジャーニー・ホーム2』において、伝統的なポッサムの毛皮のマントを身につけた作家の家族をモデルとしている。同国では1967年に憲法が変わるまで、アボリジナルは元の土地を離れて、悲惨な条件で生活することを余儀なくされていた。そうした先住民族の苦難の歴史に目を向けながら、クラークは自らのルーツを未来へと受け継ぐために写真を撮っている。

一方で日本からは石内都、片山真理、畠山直哉、横溝静が出品している。そのうち目立っているのが、自らの身体をモチーフにしたセルフポートレイトで知られる片山真理だ。9歳の時に先天性脛骨欠損症のために両足を切断した片山は、手縫いのファブリックを背景に自身を撮影することで、体の美しさや官能性を表現している。また自らの故郷である陸前高田を撮影した畠山直哉のシリーズも見過ごせない。畠山は同地を東日本大震災の直後から現在まで撮り続けているが、その写真を2020年から2011年へと時間を遡るように展示している。過去を見つめながら、道半ばである復興への未来を考えさせられる作品だ。

過去に東京都写真美術館では、『世界は歪んでいる。─Supernatural Artificial』展(2004年)や『オーストラリア現代作家 デスティニー・ディーコン』展(2006年)を開催し、オーストラリアの現代写真表現を文化交流の一環として紹介してきた。以来15年。同国の現代写真を新たにリサーチしただけでなく、日本の作家とあわせ見ることで、それぞれの国の歴史やアイデンティティをはじめ、環境や災害といった地球規模の課題なども可視化されているのではないだろうか。過去や現実を捉え、さまざまな問いを投げかける写真家の制作と向き合いながら、リバーシブルな関係にある未来に希望を見出したい。---fadeinPager---

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ローズマリー・ラング『effort and rush #1』2015年
©Rosemary Laing, courtesy of Tolarno Galleries
第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2007年)などの国際美術展でも評価が高いローズマリー・ラング。雄大な国土を有するオーストラリアのアーティストにとって、自然は重要なテーマの1つとなっている。

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マレイ・クラーク『ロング・ジャーニー・ホーム2』2018年
©Maree Clarke, courtesy of Vivien Anderson Gallery
先住民の女性としてヴィクトリア州北西部で育ったマレイ・クラークは、30年間にわたり自身の文化的遺産を肯定しながら、その知識の再生などに焦点を当てた芸術活動を行ってきた。日本では初めての展示となる。

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片山真理『in the water #008』2020年
赤く発疹した足に金色のラメがきらめく。『無垢と経験の写真 日本の新進作家 vol.14』(東京都写真美術館、2016年)などで作品を発表してきた片山は、初の写真集『GIFT』で第45回木村伊兵衛写真賞(2020年)を受賞した。

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畠山直哉『2016年6月25日 高田町長砂』〈陸前高田〉より 2016年
©Hatakeyama Naoya, courtesy of Taka Ishii Gallery
1958年に岩手県陸前高田市に生まれた畠山。人工的な環境の中で起こる建造、災害、破壊をモチーフとして、「変化」と「再生」の概念を探求している。

『リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真』

開催期間:2021年8月24日(火)~10月31日(日)
開催場所:東京都写真美術館 3階展示室
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月、9/21 ※但し8/30、9/20は開館
入場料:一般¥700(税込)
※オンラインによる日時予約を推奨。臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://topmuseum.jp