スピリチュアリティとフェミニズムとの関係性とは?

  • 文:今泉愛子

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2000年代以降、スピリチュアル市場が急成長したと言われている。この市場の主なターゲットは女性たちだ。話題の本書『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』の著者であるジェンダーとスピリチュアリティを専門とする橋迫瑞穂(はしさこ みずほ)は、テレビ番組や雑誌、書籍、ウェブサイトを通じて、スピリチュアル市場が提供するコンテンツをこう紹介する。

「人が放つ霊的な力『オーラ』や特別な『気』を有する『パワースポット』、特殊な力を秘める石とされる『パワーストーン』などが挙げられる」(P4)

目に見えない力が働いて運が上向いたり、思わぬ人と縁がつながったりすることを期待し、オーラ診断やパワースポット巡り、パワーストーンを身につけたりする人たちが増えているのだ。

さらに近年スピリチュアル市場で急速に注目されているのが、妊娠や出産に関連するものだ。本書では典型的な例として「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」の3つを取り上げる。

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「子宮系」とは一体なんなのか? 

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「女性の生殖器である『子宮』に神聖性や神秘性を見いだすことで、自身の「女性らしさ」を獲得したり、生き方の方向性を決めたりする考えや価値観の一群を指す」(P47)

子宮を良好な状態にするためのマッサージや体操、生活習慣の見直しなどを伝える書籍やセミナーが、人気を集めているらしい。

「胎内記憶」は、胎教とは少し異なる。主体は胎児ではなく母親なのだ。子どもの胎内記憶では、著者は母親の心情をこう解説する。母親に選んだとか、失敗しても許すといった胎児から母親に向けたものが多い。

「妊娠・出産に不安を抱える母親たちにとって、聖性を帯びた子どもが自身を免責したり、受容してくれるというような価値観が、より深い安心感を与えるものであることは想像に難くない」(P108)

そしてできるだけ医薬品や医療に頼らずに出産する「自然なお産」が、「胎内記憶」とつながるとされる。

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スピリチュアリティとフェミニズムとの関係性

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本書を通じて、著者が指摘するのは、こうしたスピリチュアリティとフェミニズムとの関係だ。

「『女性らしい』身体性を自分自身でつくり上げることが推奨されるだけでなく、美しさや優しさ、前向きな明るさといった『女性らしさ』を内面化することの重要性も強調されている」(P197) 

こうしたスピリチュアルな世界では、自分らしさを追求することよりも、伝統的な価値観にもとづいた女性らしさが求められることが多いのだ。それでもこの世界に惹かれる女性は大勢いる。妊娠や出産において女性は孤立し、責任を負わされるからだ。

「『スピリチュアル市場』における妊娠・出産コンテンツには、男性の存在感が希薄である。そのことは、家族を維持していく上で重要なパートナーであるはずの男性に対する、期待の薄さを示唆するものである」(P202)

妊娠、出産時に母子関係のみが強調されると、家族は危ういバランスの上で成り立つことになる。男性こそ、こうした実情を理解しておく必要があるのではないだろうか。

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『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』

橋迫瑞穂 著 集英社 ¥946 (税込)