コロナ禍で働き方が変化したいま、考えておきたいお金の話

  • 文:川畑明美

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波平指数をご存じだろうか? 定年退職後セカンドライフとして過ごす期間を波平指数といわれているのだ。scyther5-istock

日本人の未来について、あなたは考えることあるだろうか? 将来の日本を考えたとき「人口減少」「少子化」「高齢化」などのキーワードが多く出てくる。高齢化が進む日本人の定年は、伸びる一方だ。「波平指数」というものをご存知だろうか。漫画『サザエさん』の父親の、あの波平さんのことだ。その波平さんの年齢は、なんと54歳なのだ。


『サザエさん』での波平さんは、当時の定年55歳を翌年に控えた「初老」の父親という設定だ。原作は1949年に描かれている。当時の55歳の方の平均余命は18.5歳だった。ちなみに、当時の平均寿命(0歳の平均余命)は63.6歳だ。つまり、「平均余命の18.5年=波平指数」というワケだ。そして、現在の定年65歳の平均余命を調べると65歳男性で19.83歳、65歳女性の平均余命は24.63歳だ。男性の平均余命は「波平指数」とあまり変化はないが今後、平均余命がもっと伸びると考えられていて70歳定年が努力目標になっている。

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コロナ禍で「終身雇用」がどんどん消えていく

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コロナ禍で時短や週休3日などが進むと終身雇用も崩れていく。これが老後破産の引き金にもなりかねない。Yue_-istock

健康寿命からいえば75歳まで仕事することは可能だと考えられる。しかし、長時間労働は厳しくなるだろう。これは筆者の予想だが、これからの社会は平均年収が減るが、労働時間も減ると考えている。そして若くて体力のある方は、副業をすることが普通になるのではないかと予測している。その兆候は、既に現れていて、みずほ銀行は週休3~4日制を導入すると発表している。この場合、週休3日を選ぶと、それに応じて給料も減る。特にコロナ禍で打撃を受けた企業ほど人件費削減のため、時短・副業解禁が進むと考えられる。


そうなると、何が変わるのかを考えることだ。いままで日本の雇用は「終身雇用」だった。この終身雇用は、今後なくなっていくだろう。終身雇用では、新卒社員を企業が定年まで拘束する代わりに企業が社員の生活を守る責任があった。会社の寮や家賃保証、退職金制度を含む福利厚生などだ。


時短・副業解禁が進むと1企業が社員の生活を守る責任も軽くなると予測できる。既に社員寮は、リーマンショック以降あまり見かけなくなった。コロナ禍で時短や週休3~4日が進むと退職金も福利厚生もなくなると考えられる。健康維持のための福利厚生は、個人でやるものにかわり、副業をするならば、退職金の制度もなくなり自分で退職金を準備するしかない。コロナ禍で終身雇用が崩壊し、老後破産に陥る可能性が高い「3つの危険」を考察してみよう。

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コロナ禍で加速する退職金の見直し

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以前はあって当たり前と言われてきた退職金制度。老後資金の柱である退職金制度がなくなる日が近付いている。artisteer-istock

危険その1は、コロナ禍で加速する退職金の見直しだ。コロナ禍でテレワークやフレックスタイム等自由度の高い働き方に変わって、キャリアは社員自らが獲得すべきという風潮に変わっている。企業は、その時々に必要な有能な人材を集めるようになるだろう。そうすると人材の流動化が進むので、ずっと同じ企業に勤めることもなくなるのだ。終身雇用を前提とした賃金体系もなくなると考えられる。そして現行の退職金制度は、転職者には不利な仕組みなのだ。基本的に勤続3年以上ないと退職金の権利も得られない。また、権利が発生しても勤続年数が短ければ減額される設計になっている。優秀な専門的人材を獲得したい企業にとって退職金制度は、足枷となっていると考えられる。コロナ禍明けの日本企業に終身雇用は消え、老後資金の柱「退職金」がなくなる日が近付いている。

だが、政府も公的年金だけで老後の生活を支えることは難しいと認める中、退職金をなくすわけにいは行かない。そこで多くの企業が取り入れ始めたのが企業型の確定拠出年金だ。企業型確定拠出年金は退職しても持ち運びができる。転職した企業に企業型確定拠出年金があれば転職前の確定拠出年金資金は、そのまま次の企業型確定拠出年金に引き継がれる。もしも転職先に企業型確定拠出年金がなくても個人型として保有することが可能だ。


何度転職しても、いままで積立した退職金はなくなることはない。また、企業にとってもメリットがある。企業年金を採用している企業は、国が用意した制度を使って外部の金融機関に積立をしている。ところが、運用難に陥った場合、企業が穴埋めしなくてはならないのだ。企業型確定拠出年金ならば、運用の損失があっても、社員の自己責任になる。このような背景があってコロナ禍で退職金制度は大きく変わっている。退職金を増やすには、自分で運用を学ぶ必要がある。

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通勤手当がなくなると年金が減る?

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コロナ禍で福利厚生費に変化が起きている。特に遠距離通勤をしていた方の交通費がなくなり年金減額の危機に。

危険その2は、通勤手当がなくなると年金が減ること。コロナ禍で休止・廃止した福利厚生は何か。『月刊総務』が行った「福利厚生に関する調査」によると通勤手当は3.4%の企業で休止・廃止されている。定期券による支給を廃止して実費精算や回数券などの支給に移行しているようだ。


この交通費によって年金が減ってしまうことご存じだろうか。社会保険料の算定基礎となる「報酬月額」は通勤手当を加算している。報酬月額には、基本給をはじめ、通勤手当や残業手当、住宅手当など毎月支給されるものは含めて計算する。その標準報酬月額を使って健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料の負担額が決まる。


つまりコロナ禍により在宅勤務となり通勤費が休止されてしまうと、年金が減ってしまう可能性も高くなるのだ。通勤費に加え、残業手当も減少している場合、報酬月額が減少することで厚生年金保険料が減額されてしまう。標準報酬月額の等級は、例えば25万円以上27万円までが28万円の等級となるなど幅があるが、残業代も減少していれば、多くの方は等級を下げているだろう。また、傷病手当や出産手当の金額にも影響されるので、そちらの注意も必要だ。

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夏のボーナスは平均で前年比6.59%減っていた?

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コロナ禍でボーナスカットは横行している。ボーナスに頼った生活は改めざるを得ない。porcorex-istock

危険その3は、ボーナスの減少だ。厚生労働省は9月10日、主要民間企業の2021年夏の一時金(ボーナス)妥結額が、平均で前年比6.59%減の77万3632円だったと発表した。新型コロナウイルス感染拡大による経営悪化に伴いボーナスカットが進んでいる。ボーナス額が減少することで家計にどんな影響があるのだろうか? マイナビが実施したアンケートによると以下のような不安が上がっていた。


・生活費が足りなくなる

・将来への不安がある・将来設計が狂う

・ローンが払えない

・貯蓄ができない

・買いたいものが買えない

・教育費が足りない


毎月の収入はギリギリでも、ボーナスで貯蓄をしたり将来のための資金を貯めたりしている方は多いだろう。コロナの感染者が増え続けている現在ボーナスに期待するのは難しいと考えられる。特にローンの支払いをボーナス頼みにしている場合は毎月の生活費を切り詰めて対応せざるを得ない。かなり厳しい状況にあると考えられる。


ネット検索をするとコロナボーナスカット違法と調べている方が多いようだ。だが賞与の支払い義務や支払い方法について規定した法律はない。ボーナスの支払いについては、就業規則、賃金規定、賞与規定などの社内規定で定められている。ボーナス金額の決定については、会社の裁量が認められているケースが多く業績不振などを理由にボーナスを減額、または不支給としても企業の裁量しだいということだ。

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コロナの流行で働き方の急激な変化が進む


コロナ禍で世の中が変わり企業の業績が不安定になっている。終身雇用の崩壊で退職金制度が変化していくこと、通勤費などの福利厚生費の変化で年金額が減る可能性、ボーナスをあてにしたライフプランの設計等は、危険と言わざるを得ない。自分の退職金を上手に運用することや、標準報酬月額の確認の徹底、住宅ローンのボーナス返済などは見直しするなど先手の対応が必須だ。

「社会全体の仕組みが変わる」というレベルの大きな変化は、数年かけて徐々に移行し普及していくといったもだった。しかし、コロナ流行により私たちはライフスタイルや働き方などの急激な変化を余儀なくされてしまったのだ。老後破産に陥る危険性を素早くキャッチして早めの対処が必要になる。そして、最も取り組んで欲しいのはお金の置き場所を変えるということだ。銀行にお金を置いておくだけではお金は増えない。まずは証券口座を開いて、お金が働く場所を確保しよう。

参考:

キャラクター紹介【サザエさん一家】

波平指数」からみた社会保障の担い手論議 野村総合研究所(NRI)

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに、家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/