写真家・操上和美が語る、愛機・ライカの魅力

  • 写真:正重智生(BOIL)
  • 文:ガンダーラ井上 

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メインの仕事道具としては他機を使っていても、ライカにはまた別の愛着をもって接する写真家たちがいる。写真家・操上和美さんに、その愛の遍歴をたどってもらった。

セクシーでスピーディ、こんなカメラは他にない

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Leica M4/操上さんが30代で手にしてから、50年近い年月をともに過ごしてきたブラックペイントのライカM4。そこにシュナイダー・クロイツナッハ製の超広角レンズ、スーパーアンギュロン21mmと、ライツの専用外付け光学ファインダーを装着。ライカは他に、35mmレンズを付けたM4をもう1台と、M6、M7を保有。

「ライカはずっと憧れのカメラだったけど、30代でようやくこれを買えました。独立してしばらくは手が届かない存在だっただけに、うれしかったなあ」

操上和美さんが手にしたブラックペイントの「ライカM4」は、ロックスターが長年愛用しているエレキギターのように、エッジは擦れてところどころペイントも剥がれ、過ごした歳月の深さを物語る。

「ペイントタイプのライカは、すり減って真鍮が表に出てくるじゃないですか。これがたまらなくいい。撮りたい!という自分の欲求に従ってきた答えがこの姿だから、手放すのは考えられない」

操上さんはライカのシャッターをギリギリまで押し込んで構え、まったく指を動かさずレリーズできる。いつ撮られたのか被写体が気づかないほどだ。

「ライカは神経でシャッターが落とせるほどデリケートなカメラです。この手触りと重量感がなんとも言えないですね。その存在がセクシーですよ」

撮影によく使う他機はハッセルブラッドやローライフレックス、ニコンF3Pなど。これらとライカとの違いを問えば「これほどのスピード感とセクシーさを内包したカメラは他にない。スピードを伴っていなければ、いいデザインとは言えないです」と断言。仕事が終わってもカメラバッグにしまわず、机の上に出したままにしたいのがライカだという。

「写真の世界には仕事とプライベートという境界線はあまり存在しません。写真家の目は、朝起きて窓を開けた瞬間から稼働しますから。感覚が目覚めた時に手元にあるカメラは、ライカがいちばん」

その風貌や感触をはじめ、写真家にとって生理的とも呼べる欲求に応えてくれるのが、ライカなのだ。

操上和美 (くりがみ・かずみ)

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1936年、北海道生まれ。61年、東京綜合写真専門学校卒業。64年からフリーの写真家として活動開始。ファッションや広告を中心に多くの作品を手がける。おもな受賞歴に毎日デザイン賞、ADC会員最高賞、講談社出版文化賞、NY ADC賞など。

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※この記事はPen2019年3/1号「ライカで撮る理由」特集よりPen編集部が再編集した記事です。