メインの仕事道具としては他機を使っていても、ライカにはまた別の愛着をもって接する写真家たちがいる。写真家・藤田一浩さんにその愛の遍歴をたどってもらった。
余計なものが写っていて、逆にそれが面白いんです。

藤田一浩さんが今回の取材時に持ってきてくれたのは1台のライカと数冊の写真集。いずれもリー・フリードランダーの作品だ。「この鏡に映っているカメラはM2ですかね?」と、『Self Portrait』と題されたフリードランダーの代表作のページをめくる。
プロのミュージシャンに憧れのギタリストが存在するように、プロの写真家の心の中にも敬愛する作家が存在することを知って、なんだかちょっとうれしくなる。モノクロの写真集を凝視すれば、映っているのは間違いなく「ライカM2」だった。
「リー・フリードランダーの写真が好きで、こういう感じで撮れないかなと思って、M2を10年ほど前に買いました。レンジファインダーのカメラをちゃんと使ったことがなかったから、慣れるのに大変で。でも、自分では予想もしなかった“余計なもの”が写っていたりするのが逆に面白いんですよ。レンズは自分の生まれた年にいちばん近い1967年製のズミクロン35mm。50歳になったら50mmにしようかな(笑)」
藤田さんが仕事の主力機にしているのは、フィルム一眼レフのニコンF3P。これにAIニッコール35mmF1.4を装着してほとんどの撮影をこなす。画角の同じレンズだが、撮れる写真は変わるのだろうか。
「ライカは撮っている間はちょっと心配なんですけれど、現像したネガをプリントしてみると想像以上に写っているんですよ。特にシャドーの階調がつぶれることなく描写されていて素晴らしいですね」
暗室作業を自ら行っているからこそ気づいたライカの魅力。モノクロフィルムを装填したライカを裸のままバッグに入れて、藤田さんは今日も出かける。ふとした瞬間に撮れる「余計なもの」を求めて。
藤田一浩(ふじた・かずひろ)

1969年生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業。文化出版局写真部、中込一賀のアシスタントを経て、97年に渡仏。2000年に帰国して以降は、ファッション誌や広告を中心にポートレート、風景、静物などのさまざまな撮影を手がける。
※この記事はPen2019年3/1号「ライカで撮る理由。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。