映像作家・柿本ケンサクが新たな表現に挑む! 展覧会『時をかける』は明日から開催

  • 文:上村真徹

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柿本ケンサク(かきもと・けんさく) ●2005年に、⻑編映画『COLORS』を制作し、劇場公開として活動をスタート。2012年、⻑編映画『UGLY』『LIGHT UP NIPPON』を公開。21年、⼤河ドラマ『⻘天を衝け』メインビジュアル、タイトルバックを演出。同年7⽉、ドラマ『上下関係』が公開。映画『恋する寄⽣⾍』が11⽉に公開。16年、代官⼭ヒルサイドフォーラムにて写真展『TRANSLATOR』展を開催。同年11⽉、ARTPHOTO TOKYOに参加。17年ニューヨークでの個展『HYOMEN』を、Taka Ishii Gallery NewYorkにて開催。同年、写真集『TRANSLATOR』を発表。2021年『TRANSFORMATION』展を開催。同年、国際美術展『⽔の波紋』に選出される。映像、写真という境界を越えた活動を広げている。

演出家・映像作家・撮影監督として幅広く活躍中の柿本ケンサクによる展覧会『時をかける』が、渋谷パルコ地下1階『GALLERY X』にて9月17日から26日まで開催される。音楽現像によって生まれ変わる写真の変化を独自のアルゴリズムで表現した新作『Trance Music』をメインに、過去に発表した「Trimming」シリーズや「TRANSLATOR」シリーズも新たな方法で展示される。

「音楽現像」という新たな手法を用いたインスタレーション

「Trance Music」は、音楽を聴いた写真たちが絶えず動き続ける様をインタラクティブに鑑賞できる斬新なインスタレーション作品。この新しい表現手法にチャレンジした経緯について、柿本自身はこう語っている。

「最近では誰もが簡単に高解像度の写真や映像を撮れるようになりました。当たり前になった高解像度から解き放たれた時に、なにが残ってなにが生まれるのか。そんなことを考える中で、これまで撮影してきた写真の解像度を落とし、抽象化していくことで出合う“偶然性”を、彫刻のように掘り出せないか、と思うようになりました。そこに、2021年1月の写真展『TRANSFORMATION』で用いたAI現像(AIのディープラーニングによって風景写真を現像する手法)をさらに発展させたいという思いが重なり、『音楽現像』という手法にチャレンジしました」

AIに写真と音楽を機械学習させることで、変化の"偶然性"を表現する「音楽現像」。使用した音楽にも柿本ならではの思いが込められている。

「人類の歴史を振り返ってみると、現在のコロナ禍のように、世界がガラッと変わった瞬間がたくさんあります。音楽は、その変化のきっかけをつくってきたもののひとつだと思っています。そこで、歴史のターニングポイントになった音楽を探して最終的に10曲まで絞りました」

今回の現像に用いた写真は、「TRANSLATOR」シリーズなどコロナ禍前に世界各地で撮り続けていた風景写真。それらを“海”や“街”など10の性格に分類し、選曲した音楽をランダムに聴かせ続けることで、無限のパターンの変化を生み出したという。

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「TRANSLATOR」シリーズ。柿本が世界50ヵ国以上を旅する中で出会ったランドスケープを、言葉では表現できない空気や体温まで切り取っている。※画像はイメージ。実際の展⽰と異なる場合があります

「コロナ以前と以後で世界が変わり、コロナ以前に撮影したものも、見た目は同じだけど本質的な中身はまったく別のものに変わっているはず。そうした変化を写真で表現したいという思いがありました。私は映画も撮りますが、音楽現像によって写真に2時間の映画と同じくらいの熱量や時間を込めることで、刹那を写した一枚の写真にズシリとした重力やストーリーを宿すことを目指したのです」

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「Trimming」シリーズ。身の周りの何気ない事象にピントを合わせ直すことで、新しいデザインとして再生させるというコンセプトをもとに制作された。※画像はイメージ。実際の展⽰と異なる場合があります

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「+81FILM」の新作も公開

昨年公開された「+81FILM 」のトレーラー映像。コロナ渦で映画制作が困難を極めるなか、リモートでの制作を行ったことで話題となった。

さらに、今回の展覧会と併せて、2020年夏に世界同時配信された“世界を繋ぐ”映像プロジェクト「+81FILM」の新作『DROP BY DROP』も上映される(過去の短編3本と併せて⼀挙上映)。本シリーズは、これまで柿本が世界各国を旅する中で知り合った現地のクリエイターたちとリモートで制作するというスタイルを用いている。

「『+81FILM』は、これまで私が世界を駆け巡る中で思いつき、書き留めたショートストーリーをベースとしています。ストーリーはあくまで私の空想なので、現地の人々の実態に則さない場合もあるかもしれませんが、現地のクリエイターたちに制作してもらうことでリアルな血を通わせることができると考えています。最終的に日本で編集し、音楽家が制作した楽曲をつけて作品として仕上げています」

リモート制作において重要なことは、「相手を信じること」だと柿本は語る。

「シナリオを形にする方法は、現地のクリエイターに委ねるしかない。相手を信じることによって自分のことも信じてもらうことができ、結果としていい作品が生まれると思っています」

「+81FILM」は過去3作に細野晴臣、半野喜弘、大橋トリオという大物アーティストが参加している。ハンガリーを舞台にした『DROP BY DROP』では、水曜日のカンパネラで作曲を担当するケンモチヒデフミが楽曲を提供した。

「『DROP BY DROP』の中にある『逃走シーン』にエレクトロミュージックを得意とするケンモチさんの楽曲がマッチすると思い、お願いしました」

被写体の人生の断片と繊細な感情が揺らぎを産みだし、圧倒的な美と力強さを感じさせる映像作品。無意識に目の前にある世界の断片を撮り続け、具体を抽象化させる表現に努めた写真作品。「社会にあふれる情報の洪水によって思考停止に陥りがちですが、あえて解像度を下げて、心の波を静めてみる。そうすることで、自分にとって大事なものに気づき、正しく情報を取捨選択することができると思います。今回の展覧会が、そのきっかけになればいい」

そう願う柿本の思いと独自の世界観を、展覧会「時をかける」で体感しよう。

【展覧会「時をかける」】

会期:2021年9月17日(金)―9⽉26日(日)
会場:渋谷パルコB1F「GALLERY X」
時間:11:00―20:00 ※入場は閉場時間の30分前まで ※最終日は18:00閉場
料金:¥500(税込)
WEB:https://art.parco.jp/galleryx/detail/?id=720

【「+81FILM」特別上映会】
●日程:2021年9月25日(土)17:00
●会場:渋谷パルコ8F「ホワイトシネクイント」
●料金:¥1,200