マグナム所属の写真家、ブルース・ギルデンがM型ライカを選ぶ理由

  • 写真:加藤里紗
  • 文&コーディネート:長谷川安曇

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ライカを仕事道具として使い続ける写真家たち。なぜ彼らはM型を選ぶのか? その作品を紹介しつつ、ライカで撮らずにはいられない理由を写真家・ブルース・ギルデンに訊いた。

「ライカは手に持った感触がいい。自分の身体の一部のようだ」

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レンズのように美しい目が印象的なギルデン。シャッターチャンスを見つけた時、踏み込んでいく運動神経も大切だと語ってくれた。

「笑うな、そのまま歩け! いま俺は写真を撮りたいんだ」と、ニューヨークのストリートで叫ぶ大男。右手にカメラ、左手にはケーブルでカメラにつないだフラッシュを持って、街を行く人々を真っ正面からいきなりフラッシュを使い撮影。「キャンディッド・フォト」と呼ばれる手法で、まさに居合い抜きのような手法を得意とする彼こそが、ブルース・ギルデンだ。

ニューヨークのストリートから南部の売春婦、日本の暴力団など「裏側の人々」を被写体に、一歩踏み込んだ緊迫感のある作風を持ち味としているギルデン。彼は、ライカ使いの写真家としても広く知られている。

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身の危険を顧みない、被写体との近距離撮影

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Leica MP/ギルデンが2003年頃から使用しているのがライカMP。マットな質感とオールブラックなスタイルがお気に入り。被写体がカメラを意識しすぎない、自然体のストリートフォトに最適だという。

「写真を始めた理由は、幼い頃、僕に虐待を加えた両親に、自分がクリエイティブであることを証明したかったから。シャッターを切るごとに、その思いは強くなり、いまのようなアグレッシブな撮影方法にたどり着いたんだ」

そう語るギルデンは、アメリカのみならずイギリスやハイチ、コロンビアなど、さまざまな土地で精力的に撮影する。愛妻や娘と一緒に日本に住んだこともある。1998年に、写真家集団「マグナム・フォト」に所属。ギルデンにしか表現できないパワフルな写真には賛否両論が寄せられるが、世界のアートシーンでは高く評価されている。そんな彼の相棒は、M型のライカ。最初に手にしたのは中古カメラ専門店で購入した「ライカM4」だった。

「レンジファインダーのライカは、僕がストリートで体験した出来事をリアルに描くことができる。一眼レフのカメラはファイダーでのぞいたままの“画え”が写真になるため、作品が少し窮屈に感じる。でもレンジファインダーは、ビューファインダーが大きく、実際に写るフレームの外の世界も見えるため、写真の構成がしやすい。ストリートや人混みでのシャッターチャンスを常に狙う僕にとって、瞬時に構図づくりができることは重要なんだ」

レンジファインダーはより多くの情報が見えるため、その時の雰囲気が切り取りやすく、臨場感も伝わりやすい。ギルデンにとってそうした瞬間を追う美学は、ライカがあってこそなしえる技といえる。そんな彼がいま愛用するのは、ライカM4の他に「M6」「MP」といったレンジファインダーが中心。上の写真のように28mmの広角レンズを合わせ、今日もニューヨークの人混みで瞬間的に写真を切り取る。

「ライカは手に持った時の感触がとてもいい。まるで自分の身体の一部のように馴染むんだ。手にすると被写体へ飛び込む度胸が生まれる。そうやって僕は、決定的な瞬間をいつもファインダーに収めているんだ」

Bruce Gilden(ブルース・ギルデン)

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1946年、米ブルックリン生まれ。ペンシルベニア州立大学を中退しフォトグラファーの道へ。米国内外で撮影し、刊行した写真集は23冊にものぼる。98年に「マグナム・フォト」に参画。アップステート・ニューヨークを拠点に活動。

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※この記事はPen 2019年3/1号「ライカで撮る理由」特集より再編集した記事です。