二拠点生活を始めて、人生が楽になった話。

  • 文・写真:馬場未織

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今回は、わたしが二拠点生活を続けている理由について話をします。
実際は二拠点生活って余計に生活が大変にならない?とよく言われるからです。

なぜこのライフスタイルを15年も続けているかといえば、多分、楽だからです。
生きているのが楽になった。
究極的にはこの感覚があるからだろうと思います。

楽なのと、暇なのとは、違います。

日々はそこそこ忙しくしています。仕事と子育てと夫育てと介護があり、週末は南房総にある二拠点目の家と往復をしていますから。8700坪の(広すぎる)土地で野良仕事に追われているっちゃ追われています。
もし二拠点目がない人生だったら、もっと「暮らすことに使う時間」が少なかったかもしれません。

でも生きている状態としては、以前よりも楽だと感じています。
他の人と比べることはできないけれど、当社比というか、自分比としてはそう。
その理由は、二拠点生活でのいくつかの気づきにあります。
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里山で整い、里山も整う。

野良仕事って、けっこうな全身運動なんですよね。鎌で竹を払うのも筋肉を使うし、背負う刈払い機もそこそこ重量があるし、気が付くと10000歩や20000歩くらい平気で歩いているし。そして、動いた分だけ草は刈られ、竹や木々も整理されて、自分自身と環境がいっぺんにいいかんじになる。スポーツをした時のような気持ちよさに「自分がこの里山景観をつくっているんだ」という質のいい充実感が加わります。
実はこれ、生態系に組み込まれた安心感なのかもな、と思うことがあります。生きものとして役割を果たしているというね。

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鬱蒼とした山林に、光が差し、空間ができる。いいものです。

死ぬまで生きる、だけ。

せっせと野良仕事をしていると、人間以外の生きものとすごく近しくなります。たとえばミミズ。くねくね土をほじくって大地と格闘する様子をじーっと見ていると、やっていることはわたしもおんなじだなあと思えてきます。悩んだり苦しんだりしながら高等なかんじで生きている人間も、ミミズも、みんなみんな生きているから大変なんだ。リアル「僕らはみんな生きている」です。
要は、ミミズも自分も一生懸命生きた後、死ぬのです。そのシンプルさを暮らしの中で体感できます。現代の人間社会は死を隠しすぎているので、命に限りがあることをウッカリ忘れがちです。永遠に存在するように思っていると、悩みは深まるし、欲も深まる。

死ぬまで一生懸命生きよう。
脳味噌を使う仕事だけしていると目減りしていく、そういうシンプルな生命力が戻ってきます。

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後世に命をつないでいく、という大きな使命はカエルも人も一緒です。---fadeinPager---

いくつもの場所で生きていい。

二拠点目に根を張るようになって改めて確信したのは、住まいだけでなく、仕事も、人間関係も、複数ある方が圧倒的に健全だということ。「ここだけで勝負する」という一途さは一見尊いように見えますが、失敗できない、ここを失ったら後がない、と追いつめられると萎縮もします。本来の力や魅力が発揮できない状況と表裏一体です。

多様な立場、多様な視点、多様な拠点を持つことで、むしろ余分な力が抜けていきます。自分を俯瞰できることで冷静さが宿るからです。

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家猫のマックロも二拠点生活をしています。本物の木登りや、獲物を知り、ありありと生きて欲しいから。


東京に帰ろうと車で農道を走っていたら、牛舎から出てきてこっちを見てニッと笑っている近所の山口さんと、目が合いました。それだけのことで、ものすごく安心して、心が強くなる。ここにも帰ってこられると思えるから。

夏休み明けにこどもの自殺が多い、というニュースを毎年見るたびに、学校しか行く場所がなく、そこに居場所がないこどもたちの追いつめられた気持ちが分かりすぎて、胸が潰れる思いがします。

二拠点目を持つことは、自分を持続可能にすることです。
いつもとは違う場所から、自分や社会を見つめられるといい。
どこでもいいんです。誰もが、もうひとつの居場所をもてたらと、思います。

馬場未織

建築ライター、NPO法人南房総リパブリック理事長、neighbor運営、関東学院大学非常勤講師

1973年東京都生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より「平日東京/週末南房総」という二拠点生活を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、食の二地域交流事業、農業ボランティア事業などを手がける。2023年よりケアのプラットフォームneighbor運営。著書に『週末は田舎暮らし」、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』など。

Twitter / Official Site

馬場未織

建築ライター、NPO法人南房総リパブリック理事長、neighbor運営、関東学院大学非常勤講師

1973年東京都生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より「平日東京/週末南房総」という二拠点生活を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、食の二地域交流事業、農業ボランティア事業などを手がける。2023年よりケアのプラットフォームneighbor運営。著書に『週末は田舎暮らし」、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』など。

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