二刀流を極める男、大谷翔平がニ十歳の頃

  • 写真:森山将人(TRIVAL)
  • 文:梶垣伸介

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Pen 2015年5/1号「プロ野球に、熱くなれ。」特集より。

※この記事はPen 2015年5/1号「プロ野球に、熱くなれ。」特集より再編集した記事です。そのためインタビュー記事は、2015年2月当時の内容となります。

とにかく、いまできることをしっかりと、自分自身を信じて、挑戦を続けたい。─大谷翔平

北海道日本ハムファイターズの大谷翔平が栗山英樹監督から「開幕投手」を言い渡されたのは、キャンプ中の2月20日のことだった。実はこの日は、栗山監督が尊敬する長嶋茂雄氏の誕生日。あえてその日を選んだのには、こんなメッセージが込められていた。

「長嶋さんがつくってくれたプロ野球界を、(大谷)翔平が受け継いでいかないといけない。チームだけでなく野球界を引っ張っていく存在になってほしい」

指揮官から“大役”を任された大谷は、「昨年のシーズンが終わってから、ずっと今年の開幕を目指してやってきました。自分としても感じるものがあった。昨年以上の成績で応えたい」と気を引き締めた。

日本プロ野球史上初、2桁勝利&2桁本塁打。

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入団当初、2刀流挑戦に対し、「できるはずがない」「どっちつかずになる」「プロ野球をなめている」など、逆風はすさまじかった。それでも大谷は、周囲の雑音を気にすることなく、誰も歩いたことのない道を進んでいった。

「批判があるのは最初からわかっていたこと。自分自身を信じきれなかったら、挑戦は終わってしまう。とにかく、いまできることをやっていきたい」

とはいえ、前例のない挑戦なのだ。たとえば、野手として試合に出ながら、次の登板に向けた調整をどうしていくのか。登板後、身体が回復するまでどれぐらいかかるのか。首脳陣も大谷も試行錯誤の連続だった。

結局、1年目のシーズンは投手として13試合(61回2/3)に登板して3勝0敗、防御率4・2 3、奪三振46、野手として77試合に出場し、打率238、3本塁打、20打点の成績だった。再び、「投手に専念したら2桁はできる」「打者一本に絞れば、もっと打てるはず」といった声が聞こえてきた。

ただ大谷自身はこの結果を受けて、数字はともかく、「プロの世界でも2刀流は不可能ではない」と思えたことが最大の収穫だった。

そして2年目の昨シーズン、栗山監督は開幕前にこんなことを言っていた。

「チームの優勝を考えると、大谷がローテーション投手になってもらわないと……。投手として1年間働いてもらうことが最低条件」

指揮官の期待に応え、大谷は開幕からローテーションに入り勝ち星を重ねていった。7月9日の楽天戦では毎回の16奪三振を記録。オールスターでは日本人最速となる162キロをマークするなど、投手としての才能を開花させる。そして8月26日のソフトバンク戦で勝利投手となった大谷は、ひとつの目標であった「10勝」を果たした。

一方、野手としても成長のあとを見せた大谷は、9月7日のオリックス戦で10号本塁打をマーク。入団2年目にして日本プロ野球史上初となる「2桁勝利&2桁本塁打」を達成した。

もはや2刀流に異論を唱えるものはほとんどいなくなった。

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どんなスポーツをやっても超一流になるであろう抜群の身体能力と193cm、90kgのバランスのいい体格をもつ。

2刀流3年目の今季、いやが上にも期待が高まる。昨年残した、投手としての11勝、防御率2.61、179奪三振、野手としての打率274、10本塁打、31打点の成績を上回ることはもちろん、タイトル奪取も視野に入れる。

「まずは投手としてしっかり結果を出したい。1年を通してローテーションを守って、ちゃんと投げることができれば、それなりの数字がついてくるのかなと思います。最低でも15勝はしたいですね。打つほうに関しては、やっぱりホームランを増やしたいです。そうすれば必然的に打点も増えますし、チームの勝利にも近づきますから」

キャンプ中の休日、朝早くから打ち込みを行う大谷の姿があった。

「ちょっと身体を動かしたくなったので……。別に努力とは思っていません。好きな野球を淡々とやっているだけですから」

そう平然と言えるところが、大谷の本当の凄さなのかもしれない。大谷にとって2刀流とは「挑戦」でも「革命」でもなく、ただ「大好きな野球をやる」ことにすぎないのだ。

大谷翔平●北海道日本ハムファイターズ/投手、外野手

1994年、岩手県生まれ。花巻東高校時代に2度甲子園に出場し、高校3年夏の県大会で高校生最速となる球速160キロをマークした。2012年にドラフト1位で北海道日本ハムに入団。2年目はプロ野球史上初の10勝&10本塁打を記録し、15年は投手3冠(最多勝、最優秀防御率、勝率第1位投手)に輝く活躍を見せた。18年より活躍の場をMLBに移す。現在、ロサンゼルス・エンゼルスに所属し、ベースボールの本場でも2刀流の活躍が大きな話題に。先日、アメリカのニュース雑誌『タイム』の「世界で最も影響力のある100人」に選出された。

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※この記事はPen 2015年5/1号「プロ野球に、熱くなれ。」特集より再編集した記事です。