
最後に百貨店に行ったのはいつだろうか?
クラスター騒ぎが起こる前までは、よく食品売り場に行っていたが、いまは敬遠している。では洋服はを最後に買いに行ったのは?と考えると、一体いつの話なのだろうか……と記憶をたどることになる。数年は足を運んでないような気もする。百貨店のレストラン街が懐かしい。しかも、時代の変化と一連のコロナの影響で、百貨店が次々と閉店したり撤退したりしている。池袋の丸井も撤退した。
もしかすると、百貨店というものの役割が変わってきているのだろうか。なんだろう?なんでもあることが便利でもあり、面白みに欠けるのかもしれない。筆者が面倒なのは広さである。歳のせいか階を上下したり、駐車場まで歩いたり、結構疲れてしまうのと、時間を費やしてしまう。路面店なら一瞬で対応してもらえるから嬉しいのだ。
アマゾンは便利だが、買い物として面白いか?というとそれはまた別の話である。そんな気がする。「なんか面白そうなものないかな・・」という買い物はそこにはない。そんな時代に百貨店をつくるという情報をいち早くキャッチした。舞台は三重県である。しかも、元々百貨店で腕を奮った凄腕たちが立ち上げるというので期待している。
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三重にオープンした、VISONという施設
コロナ禍で移動ができないので、ネットで調べる。その舞台となるのは7月にオープンしたVISONという施設である。しかもこの時代に、1日1万人もの集客がある巨大施設だ。三重県多気町にある。名古屋から車で90分ほど。伊勢神宮まで車で20分というから非常に便利な施設である。敷地面積は、35万坪。ホテルから温浴施設、飲食店などが立ち並ぶ。HISと住友林業の新会社が作った宿泊施設が3つ。ホテルヴィラと旅籠。筆者はまだ宿泊していないのだが、豪華な感じが写真からうかがえる。
温浴施設は、三重大学とロート製薬がアカデミアの治験と製薬会社のノウハウからの共同研究で出来たものである。筆者は初めて聞いたのだが、三重県発祥の本草学(ほんそうがく)を現代の技術でブラッシュアップし、新しい形の温泉施設を提供している。

「あれ?」ネットやパンフレットなどの資料を見ても百貨店の文字はない。空撮の写真にも百貨店らしいものはない。一体どういうことか?まだ現在プラン中でいち早くこの情報を入手したので、現在事業の準備をしている羽田未来総研に話を伺った。
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羽田未来総研が開く、「バーチャル百貨店」とは?

羽田未来総研は、羽田空港を運営する日本空港ビルディングの子会社で地方創生などを積極的に行なっているコンサル会社である。羽田空港内や東京、原宿駅前にあるウィズ原宿内に店舗展開を行い、地方の優れた製品などを東京の人に伝えている。先日も、ウィズ原宿内の地下1階にある、羽田未来総合研究所とNTTアドが共同運営をするHARAJU Cross JAPAN MASTERY COLLECTION_estカフェに足を運んだ。ちょうど岐阜県の特集(12月26日まで開催)をしており、岐阜県の名産の陶芸品やオリンピック絡みの下駄や扇子、芸術的な領域に達している番傘などが並ぶ。
筆者も小中学生時代は岐阜県で育ったので非常に関心が深い。だが、筆者の知っている岐阜県の製品とは少し違っていた。ちょっと現代風というか、非常におしゃれにデザインされたものが多く、よくある土産物屋さんに並ぶ品物とは一線を画す。「岐阜県の製品ってこんなにすごかったんだ」と実感している。そんな羽田未来総研が新しくこのVISONで百貨店を開くというが、どういうことなのだろうか?事業開発部の仲村雅史氏に話を聞いた。「リアルな百貨店の建物があるわけではないのです。これはネット上にあるバーチャルの百貨店なのです。しかもこれまでにない体験型百貨店です。私達の知る限り初の試みです。」という。
実は、仲村氏の前職は、百貨店。長年リアルな百貨店で得たノウハウを、ウイズコロナの時代に合う、新しい形で提案したいと考えているという。つまり、リアルな建物をこれから建てるということではない、今あるVISONの施設を使って、ネット上のバーチャル百貨店と結びつけるのだという。つまり、EC版の百貨店である。
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宿泊施設で体験して「いい」と感じたものをECで購入

『食』をテーマとした博物館のKATACHI museumでは、世界各地で昔に作られた『食』にまつわる様々な道具を独自の切り口で選定し、あたかもアート作品であるかのように展示。
「このVISONの宿泊施設などにあるもので“欲しいな“と感じていただいたら、スマートフォンでその商品を撮影。すると、専用サイトにジャンプ。そこから商品を選んでいただければ購入することができます」と仲村氏。現在そのシステム開発を行なっておりこの秋に実装する予定だという。ある意味ではECサイトでもあるが、あくまで彼らが目指すのは体験型百貨店だ。つまりこのVISONの宿泊施設で使ったタオルなどの生活用品や家具などが「これいいな?」と思ったら買うことが出来るというのだ。
また、飲食店や宿泊施設で実際に食べた食品などで「これ家でも食べたいな」もしくは「旅行に来れなかった両親にプレゼントしたいな」と思ったものも購入できるのだ。つまり、来場者が体験したものを購入することが容易なシステムといえる。もちろん、来場者以外も登録すれば購入することができるという。体験してから買うか?もしくは先に購入して体験してからVISONに行ってみるか、といったさまざまな選択をすることが可能な百貨店なのである。
通常の百貨店の場合は、店頭ということもあって、購入までにそのもの自体を使ったり体験したりすることが非常に難しい。人目もあるし、衝動買いをしてしまうことも多い。家に帰ってみたら意外に使い勝手が悪かったり、いらないものを買ってしまうことも多々ある。特に食品は、パッケージに入っているものは家で実際に食べてみるまで分からない。試食で食べるのと家で食べるのとでは雰囲気も違う。開封してから口に合わなかったということが結構ある。写真と感じが違ったということも度々ある。ECサイトの場合はさらに顕著である。イメージと違うというのは日常茶飯事だ。食器も、触ることがないので、触感などが分からない。そこを補完というか新しく提案するのが今回の体験型百貨店ということだ。
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将来的には
「小売や百貨店業界が厳しく、将来に向けて新しい百貨店はどうしたらよいのか、というところからスタートしています。お客様の大きなニーズや行動変化、リアルからネットへの変化、データマーケティング、近年生まれている優れたプロダクトといった背景も受けています」と羽田未来総研の代表取締役社長の大西洋氏は語る。
ご存じの通り、大西洋氏も百貨店の出身。大手百貨店の社長まで勤め上げた人物である。
「さらに将来像としては、これらを検証したのち、地方に多くあるコンテンツやプロダクトをこのサイトに増やし、その後は越境ECまでできればと考えてます。そういうことを通じて地方創生に寄与していきたい。百貨店としての将来像はリアルからネットに移行するとはいえ、まだまだ9:1でリアルがメインです。今こそリアルでのビジネスをどうするか、それこそすべてのライフプランナーになることが重要です」と大西氏が考える次の時代の百貨店の一端が見え隠れする。
現在は、まだシステムを作っている最中で全貌を見せてもらうことは出来なかったが、完成したらいち早く使ってみたいと思う。筆者は東京在住なので、まだ三重に移動することは出来ないだろう。緊急事態宣言が開けるまでは越境は控えようと思う。
恐らく、筆者が三重を訪れるよりも先に、大西氏や仲村氏が考える体験型百貨店がオープンするので、まずは食品などで体験し、その後VISONに宿泊して、それを実感してみようと思う。三重県の広大な敷地に突如誕生したVISON。レストランや農園など、単なる商業施設の枠を超えて楽しめそうだ。また、三重県を始めとする日本のいいものがここから発信されるのだろう。「今回の件は地方コンテンツを最終的にはグローバルにが目標です」と大西氏。野望は国境を超え、新分野である“体験型百貨店”のモデルケースになるのだろうか?
また完成したら、いち早くお伝えしたい。
VISON
https://vison.jp/
【執筆者】野呂エイシロウ
放送作家、戦略的PRコンサルタント。学生起業家として活躍。その後編集者を経て「天才たけしの元気が出るテレビ」で放送作家デビュー。「奇跡体験アンビリバボー」などを構成。現在は企業のブレーンとして150社以上に携わる。