「大人の名品図鑑」スウェットシャツ編#5
およそ100年前のアメリカで、それまでウールでつくられていた運動着をコットン素材に改良したものが発明された。これがスウェットシャツの起源だ。コットンの運動着は、伸縮性や吸汗性に優れ、肌触りもよいので着やすい。現代では誰もが愛用する衣服なった。今回は、映画を題材にスウェットシャツの名品を紹介する。
名匠スティーヴン・スピルバーグが1975年に監督したアメリカ映画『ジョーズ』。彼が弱冠27歳でつくった作品で、ジャンルは海洋アクションスリラー。「ダーダッ……ダーダッ……ダーダッダーダッダー♪」というジョン・ウィリアムズ作曲のテーマ曲を聴くだけで、この映画や巨大なサメを連想する人も多いだろう。
舞台となるのはアメリカ東海岸に位置するアミティ島という架空の島。海辺のパーティに参加していた女性が夜の海で泳いでいると、突然なにかに襲われ、水中に引き込まれて行方不明になる。翌朝発見された死体にはサメに襲われた跡がある。すぐに警察署長ブロディはビーチを閉鎖しようとするが、観光客が減ることを嫌った市長がそれに反対。しかし次々と犠牲者が出て、町はパニック状態に。ついにブロディは若き海洋学者のフーパーと、荒くれ者ながらサメに詳しい漁師クイントとともにサメ退治に向かう。こんなストーリーだ。
警察署長ブロディを演じるのはロイ・シャイダー。代表作は『フレンチ・コネクション』(71年)や『オール・ザット・ジャズ』(79年)など。海洋学者マット・フーパー役はリチャード・ドレイファス。彼は『アメリカン・グラフィティ』の主演でも有名で、のちに『グッバイガール』でアカデミー主演男優賞を獲得した。そして、漁師クイントを演じるのは名優ロバート・ショウ。『007 ロシアより愛をこめて』(63年)、『スティング』(73年)などの話題作に出演、俳優より先に作家として有名になり、各国で書籍も発行されているほどの才人だ。
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海洋学者のフーパーが着たスウェットシャツ
この作品でいつもスウェットシャツを着ているのが、海洋学者のフーパー。ほとんどがグレーの霜降りクルーネックタイプを選んでいる。スウェットシャツが船乗り向きかどうかは別として、若き海洋学者の普段着といったイメージでスウェットシャツを着せたのではないだろうか。フーパーはこのスウェットシャツに上下デニムウェアを合わせ、足元はキャンバスデッキシューズという70年代らしいカジュアルスタイル。ちなみに「デッキシューズ」とは船の甲板=デッキで使用するためにデザインされたスニーカーのこと。映画でも白のソールが映る場面があるが、このアウトソールには波形の切れ込みが全面に入っていて、濡れた甲板でも滑りにくいという船乗りに必携のスニーカーだ。
実はカーキの制服姿が印象的な警察署長のブロディも、よく観ると映画でスウェットシャツを着ている。色はネイビーでしかも半袖タイプ。海岸でサメを見張るシーンやサメと戦う船の上でも、ジャンパーの中にこのスウェットを着ている。フーパーはいかにも着込んだ普段着風にスウェットシャツを着ているが、海の嫌いなブロディは色も濃いネイビーでおろしたて風。着古している感じには見えない。同じスウェットシャツでも選び方や着方によって、全体の表情はずいぶんと違う。
フーパー役のドレイファスが着用したスウェットシャツのイメージを求めて探し当てたのが、アメリカで1900年に創業されたブランド、ヘルスニットの製品だ。エドワード・J・マクミランによってテネシー州ノックスヴィルで創業された老舗のブランド。ヘンリーネックTシャツが代表作だが、今回紹介する霜降りのクルーネックのスウェットシャツも、相当なこだわりをもって作られている。
1940〜50年代のアメリカ製の編機である「トンプキンス」という機械で編み立てられた裏毛素材を使用。これは日本国内にわずか数台しか稼働していない希少な編機で、高速編機のわずか15分の1のスピードで、下から上へとゆっくり編み立て、空気をたっぷり含んだ柔らかな生地に仕上げている。しかもこのモデルはクラシックなセット・イン・スリーブのデザインで、前身頃と後ろ身頃の首元に「Vガゼット」が付いている。各部の縫製も4本針の「フラットシーマー」のミシンで丁寧に縫製されており、古き良きアメリカを感じさせるスウェットシャツになっている。『ジョーズ』と同じく、アメリカの歴史と想像力を感じられる逸品ではないだろうか。
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