オダギリジョーと永瀬正敏が、いま「コメディドラマ」をつくる理由

  • 文:SYO 写真:齋藤誠一 スタイリスト(永瀬正敏):渡辺康裕(W) ヘアメイク(永瀬正敏):勇見勝彦(THYMON Inc.)  スタイリスト(オダギリジョー):西村哲也 ヘアメイク(オダギリジョー):シラトリユウキ

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オダギリジョーが脚本・演出・出演したNHKドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』の放送が始まった。

青年警察官と、彼の相棒である警察犬のコンビが奇妙な事件の捜査に挑む本作。警察犬を着ぐるみ姿でオダギリが演じるというサプライズ、池松壮亮をはじめとする空前絶後の豪華キャスト、セリフから演出から遊びまくった内容等々、第1話から濃密な展開にノックアウトされた方も多いのではないか。第2話以降はさらなる仕掛けがあるそうで、早く続きが観たいところ。

Pen onlineでは、オダギリと永瀬正敏に単独インタビューを実施。同じにおいをもつ表現者の先輩・後輩として互いに呼応する部分や、「いまコメディドラマを作る」気概について、存分に語ってもらった。

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9月17日(金)に第1話が放送された『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』。全3話で、次回放送は9月24日(金)10時から

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「永瀬さんがアルチュール・アッシュと!?」

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オダギリジョー●1976年、岡山県生まれ。アメリカと日本でメソッド演技法を学び、2003年、カンヌ国際映画祭に出品された『アカルイミライ』で初主演を果たす。その後、国内外において枠に囚われない活動を続ける。21年は映画『アジアの天使』『名も無い日』などに出演。
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――永瀬さんは1966年のお生まれで、オダギリさんは76年。表現者の先輩である永瀬さんから、影響を受けた部分も多くあるのではないでしょうか。

オダギリ:永瀬さんはやっぱり特別な存在でしたね。仕事の選び方や、俳優に限らず音楽活動やカメラマンとしての姿にも、影響を受けました。永瀬さんの活動を見ていれば、その時のカルチャーやアートを網羅できる気がしていました。例えば永瀬さんはアルチュール·アッシュと楽曲制作を行っている(1996年にリリースされたアルバム『Vending Machine』)のですが、「永瀬さんがアルチュール·アッシュと!?」と当時、突き刺さりまくっていました。

永瀬:ふふふ、いきなりアルチュール・アッシュ!流石!何か嬉しい(笑)

オダギリ:確かに、ジム·ジャームッシュの話から始めるのが普通でしたね(笑)。それにしても、ジャームッシュの横に永瀬さんがいた事実は衝撃的ですよね。歴史に残る事件だと思います。

アルチュール・アッシュしかりジャームッシュしかり、僕はオリジナリティあふれるクリエイターが大好きなので、彼らと次々にコラボレーションする永瀬さんは憧れでしたし、この業界にクリエイティブやアーティスティックなことを持ち込んでくれた俳優は、僕にとっては永瀬さんが初めてでしたね。永瀬さん以前は、「役者は役者」という固い美学があったように感じています。そんななか、永瀬さんはアート、カルチャー、ファッションを綺麗にミックスしてくれた第一人者でした。

――永瀬さんは、オダギリさんをどう見ていましたか?

永瀬:役者は、受け身の仕事ですよね。監督やプロデューサーが声をかけてくれなければ動けませんから。そんななか、オダギリくんはデビュー当初からとても良い作品や良い監督と一緒に映画を作っていて、それはもう彼の演技はもちろん、存在自体が素晴らしいという証明に他ならない。唯一無二の役者さんだと思っていました。

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「もっともっと早く組みたかった」

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永瀬正敏●1966年、宮崎県生まれ。83年『ションベン・ライダー』でデビュー。日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞作『息子』(91年)、台湾・金馬奨ノミネート作『KANO~1931海の向こうの甲子園~』(2014年)など国内外100本以上の作品に出演。写真家としても活躍中。21年には映画『名も無い日』『茜色に焼かれる』に出演。

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――おふたりとも近い時期に園子温監督の作品に出演していたり、『オペレッタ狸御殿』(2005)があったり、監督と俳優として組んだ『ある船頭の話』(2019)や共演作『名も無い日』(2021)以前にも、すごく近いところにいたイメージがあります。

永瀬:初めて『ある船頭の話』でご一緒できたとき、「なんでや! もっともっと早く組みたかった」と思いました。でも、これからがありますからね。今後のオダギリくんとの作品づくりが楽しみでしょうがないです。

オダギリ:それまでなぜか共演する機会がなかったんですよね。日本映画の流れとして、僕と永瀬さんの間に浅野忠信さんがいらっしゃるかと思うのですが、永瀬さんと浅野さんはよく一緒にやっていて、それを僕は「いいなぁ」と思って見ていました。

ただ、2人の背中を追いかけてきた感覚があるからこそ、中途半端なかかわり方は嫌だったんです。そこで、自分の初長編監督作である『ある船頭の話』のときに初めて永瀬さんにコンタクトをとり、オファーさせていただきました。これが僕の中で「ここぞ」というタイミングだったんですよね。

『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』も、NHKでドラマをやるという新たな挑戦をする際に、永瀬さんにそばにいてほしかったんです。永瀬さんがいてくれると現場の雰囲気が変わって、一気に映画の空気になるんです。

永瀬:いやいや(笑)。『ある船頭の話』のときは、声をかけてくれてすごく嬉しかったんですよね。脚本を読んだときに「勝負してる! これはすごいぞ」と感じたし、感情がそこに生きていた。三十数年俳優をやっていますからさまざまな脚本を読んできましたが、その中でも「これは」と思えるものでしたね。「役者・オダギリジョー」を忘れて読んでしまい、この世界に一緒にいさせてほしいと感じました。

『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』も、脚本を読んだときはびっくりしました。『ある船頭の話』からのふり幅がすごいし、想像できない展開がいっぱい詰まっていて、才能にとにかく驚きました。放送後、ものすごい刺激の波動が全国に広がっていくんじゃないでしょうか。3話といわず、朝ドラや大河ドラマみたいに、1年間やっていてもいいんじゃないかと思ったくらい。

オダギリ:いえいえ。恐縮です(苦笑)。

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ある事件を追うフリー記者を演じた永瀬

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構想10年、脚本執筆に丸1年

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――オダギリさんは、ステイホーム期間に脚本を書かれたそうですね。

オダギリ:もともと企画があって、テレビでやることになりまず第1話の脚本を書いたのですが、その後数カ月間書けなかったんです。コロナ禍での精神的な揺らぎもあったのですが、アイデアが浮かぶのを待って、その期間に一気に書き上げました。トータルだと、1年くらいかかっていますね。

アイデアを思いついたのは10年くらい前だったと思うのですが、いざ形にするとなると「テレビドラマの醍醐味とは?」「連続モノにする意味って?」などを考え始めて、なかなか書けなかったんです。

――「この時代に刺す」といった部分も、かなり意識されたのではないかと感じました。

オダギリ:そうですね。コロナや、そこに付随する諸問題を目にするたびに不安な気持ちになりますし、不確かさや不透明さを毎日感じています。だからこそ、現実の苦しみを少しでも忘れられる、笑えるものを観たいなと思ったんです。馬鹿げた作品が一つあってもいいんじゃないかという想いで書きましたね。

永瀬:自分の仕事を信じてやってきたけど、コロナで「不要」という波が来てしまいましたよね。でも、巣ごもり期間にたくさん過去の映画を観て「いやいや、そんなことない」と鬱積した気持ちを払しょくしてもらいました。過去に仕事した、各国の友だちが連絡をくれたのも大きかったですね。

改めて人のつながりに支えられた時期だったので、オダギリくんがコメディ主体でやると聞いたときに「そうそう! そこなんだよ」とうれしくなっちゃいました。しかも、ちゃんと足場を作って、実現させてくれるからすごい。この企画に参加するスタッフ・キャストも楽しくて仕方ないだろうなと感じましたし、本当に感謝しています。

オダギリ:とんでもない! こちらこそ感謝しています。

――本作はキャストも、とんでもない豪華メンバーです。

オダギリ:ありがたいことに、僕が書きながら理想としていた人たちがすべて集まってくれました。皆さん興味を示してくれましたが、おっしゃる通りなかなかこれだけのメンバーは揃わないですよね。NHKさんの尽力もかなり大きかったです。そうした意味では「テレビを利用する」形と言えるかもしれません。

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「この役をどうやるんだろうと、楽しみにしていた」

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――現場の雰囲気はいかがでしたか?

永瀬:滅茶苦茶よかったですよ。役者チームはみんな楽しそうでしたね。あと……「この役をどうやるんだろう」と楽しみにしていた人が横にいるんですが(笑)、最高でしたね。

オダギリ:(笑)。

永瀬:警察犬がメインのドラマを『刑事犬カール』(1977~78)くらいしか知らなかったので、しかも話すしどうやるのかな、と思っていたらまさかの着ぐるみで(笑)。撮影と撮影の間、オダギリくんはあの格好で着ぐるみの上部分を脱いで次のシーンを考えていたのですが、その後ろ姿の哀愁ったらなかったです。すごく愛おしかった。

――他の現場では、なかなかお目にかかれない光景ですよね。

永瀬:本当に(笑)。その姿を役者はみんな見てるから、さらに頑張ろうと思うんです。

オダギリ:(爆笑)。

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――オダギリさんは、脚本・演出・出演と自らチャレンジングな方向を目指されたかと思いますが、そこにはどんな想いがあったのでしょう?

オダギリ:俳優ってよくインタビューで「今後どういう役を演じたいですか?」と聞かれるのですが、そもそもが逆で、オファーがない限り演じられないんです。演じたい役があるなら自分でその場を作るしかなく、「着ぐるみを着たくだらない役をやりたいな」と思ったら、それを成立させるために企画を考えなきゃいけないんですよね。その上で自分で脚本を書くのは当たり前で、その結果、その世界観を成立させるには自分が監督するしかない…簡単に言うとそんな流れですね。

『ある船頭の話』のときは「監督をやるなら100%集中したい。監督と俳優を同時にはできない」と思っていたのですが、『アジアの天使』の石井裕也監督に「監督・主演ができる人は世界でも限られているから絶対やったほうが良いですよ」と言っていただいて、「確かにな。それができるうちに1本やっておこう」と思うようになりました。

ただ、本当に死ぬほど大変でしたね。想像をはるかに超えました。自分で書いたセリフをなんで覚えなくちゃいけないんだって……めんどくさい日々でした(笑)。

永瀬:ただ、俳優部としてはその作品のトーンが目の前に立っているから本当に有り難くて「すみません、楽させてもらいます」という感じでした(笑)。目の前でやって見せてもらえるから理解も早いし、「じゃあこうしよう」という相乗効果も生まれますし。

ただ、毎日一番に現場に来て最後まで残っているから、本当に大変そうでしたね。

オダギリ:(笑)。

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「ものづくりは挑戦でなければならないと思うんです」

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――おふたりの話をお聞きしていて、今回の現場はものづくりの原点に立ち返ることができる場だったのかなと思いました。だからこそ、視聴者の方がどんな感想を抱くのか気になります。

オダギリ:僕は、ものづくりは挑戦でなければならないと思うんです。さまざまな方に観ていただきたいし楽しんでほしいですが、だからといって無難なものを作る気持ちは全くない。非難は受けるだろうけど、新しいことをやらなければものづくりとは呼べないと思いますし、僕自身も挑戦する想いで作りました。

「この時代に、何やってんだ」という作品ですが、それを面白がってくれた方々が集まってくださって、この作品ができあがりました。失敗する可能性ももちろんありますが、それを恐れたらものづくりはできません。あまり反応は気にし過ぎず、適度に耳をふさいでいこうかなと思っています(笑)。

永瀬:いやぁ、本当にその通りですよね。大好きです。

マーケティングで「こうしたらこの層に観てもらえる」ばっかりやり過ぎちゃうと、俺たちは何のためにものを作っているんだとも思ってしまうし。革新的なものを作り続けないと、お客さんも飽きちゃうし、僕たちもマンネリになってしまう。特にテレビであれば、僕みたいな田舎育ちの少年もワクワクさせることができる。この挑戦は、新しい風を吹かせることができると信じています。

『オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ』

放送予定:2021年9月24日<第2話>、10月1日<第3話>
NHK総合 毎週金曜 よる10時~10時45分
脚本・演出・出演:オダギリジョー
出演:池松壮亮、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、佐藤浩市ほか

公式Instagram:

https://www.instagram.com/nhk_oliver/

番組公式HP:

https://www.nhk.jp/p/ts/ZPZJP2WJ9R/