史上最強チームで金メダルなるか⁉ 陸上男子4×100mリレーで他国を圧倒する「バトンパス」の技術とは?

  • 文:今泉愛子

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「Usain Bolt's last Olympic race | Throwback Thursday」Olympics-YouTube

東京オリンピックもいよいよ終盤。最大の見どころのひとつが、8月5日(木)に予選が行われる陸上男子4×100mリレーだ。“リレー侍”の異名をもつ日本チームには金メダルの期待がかかる。オリンピック過去5大会での成績は以下の通り。

2000年シドニー五輪6位

2004年アテネ五輪4位

2008年北京五輪2位

2012年ロンドン五輪4位

2016年リオ五輪2位

2000年のシドニー五輪以降、毎回決勝に進出し、日本の「お家芸」と言われるほどになり、リオ五輪ではついに銀メダルを獲得。東京オリンピックでは、悲願の金メダル獲得へ向けて着々と準備を重ねてきた。日本の短距離ランナーは、世界で決して目立つ存在ではない。過去、オリンピック男子100mで決勝に進出したのは1932年のロサンゼルス五輪の吉岡隆徳(6位)のみ。リオ五輪では、3人が出場したが、準決勝進出は2人、決勝進出はいなかった。それなのに、なぜリレーで銀メダルが獲得できたのか。

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リオ五輪で銀メダルが獲得できた理由

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「Usain Bolt's last Olympic race | Throwback Thursday」Olympics-YouTube

理由は、バトンパスにある。

リオ五輪の4×100mリレーで金メダルに輝いたのは、100mの世界記録保持者ウサイン・ボルトを擁するジャマイカで、37秒27。ひとりも100m決勝に残った選手がいない日本は、37秒60と、その差はわずか0“33。個人の走力の差よりもはるかに小さな数字だ。

4×100mリレーは選手がいかにスピードを保ってバトンパスできるかがキモになる。日本はそこに勝機を見出し、緻密に作戦を練ってきた。ちなみにリオ五輪で100m決勝に2選手を送り込み優勝候補だった米国は、バトンパスのミスで失格になっている。

バトンパスは、大きく2つのやり方がある。次走者が、大きく後ろに伸ばした手に、上からバトンを渡すオーバーハンドパスと、次走者が、自然な腕振り動作に近い状態で引いた手に下からバトンを差し込むように渡すアンダーハンドパスだ。

世界大会で各国の主流は、バトンパスの瞬間に両走者が接近せずに渡せるオーバーハンドパスだが、日本は2001年からアンダーハンドパスを採用している。手の動きが小さい分、両走者のスピードを殺さずにバトンバスができるからだ。

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東京五輪はこれまでの蓄積が開花するチャンス

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william87-istock

だが、両者のタイミングを合わせるのは非常に難しい。次走者はあらかじめ決めていた場所に前走者が到達したところでスタートを切り加速するが、タイミングが速すぎれば、前走者が追いつけずバトンが渡せない。かといって遅いと、両走者のスピードを殺してしまう。まさに阿吽の呼吸が必要なのだが、日本はこの20年間その技術とデータを着実に積み上げ、選手の走順がどうなろうとも、しっかり受け渡しができるように準備してきた。

近年、他国も研究を重ねているが、まだ日本のレベルにはいたらない。陸上競技は本来、個人種目のため「速く走ればいい」とばかりに、バトンパスをそれほど重視しない選手が多いのだ。

選手同士の信頼関係も大きく影響する。前走者が必ず追いついてくれる、という信頼がないと、次走者は思い切ってスタートできない。0.1秒の争いには、わずかなためらいが命取りになるが、日本は100mのレースでは、しのぎを削る選手たちも合宿などを通じてリレーに懸ける想いを共有している。

東京オリンピックはまさに、これまでの蓄積が開花する絶好のチャンスと言える。

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悲願の金メダルを獲得することはできるか

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オリンピック公式ページより

しかし、ここにきて暗雲が立ち込めている。100mに出場の3選手(多田修平、山縣亮太、小池祐貴)が予選落ちしたのだ。バトンパスの技術を持つ日本は、東京五輪に向けて各選手の走力アップに取り組んできた結果、4人が9秒台の記録を出すなど一定の成果を出し、日本人初の9秒台をマークした桐生祥秀が100mの代表になれないほどレベルアップしていただけに、かなり残念な結果となった。

4×100mリレーで無念を晴らすことができるのか。日本は、悲願の金メダルを獲得することができるのか。予選は8月5日(木)11時30分、決勝は8月6日(金)22時50分。走力とバトンパス。2つの力を磨き続けてきた日本のリレー侍の戦いをぜひ見てほしい。

【執筆者】今泉愛子

ライター。ランニング歴14年。現役時代は、日本陸上競技選選手権大会800m3位(1979年)、全日本中学陸上競技選手権800m1位(1980年)、あかぎ国体1500m4位(1983年)、都道府県対抗駅伝8区区間賞(1987年)などの成績をもつ。現在はマスターズ陸上に出場。世界室内マスターズ陸上競技選手権W50 1500m8位(2019年)など。

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【動画で見る】リオ五輪で銀メダルを獲得する瞬間

2016年のリオ五輪の動画。ウサイン・ボルト擁するジャマイカが金メダルで、日本は過去最高の銀メダルを獲得。バトンパスで優位に立ち、最終走者もアメリカの追撃を寄せ付けなかった。「Usain Bolt's last Olympic race | Throwback Thursday」Olympics-YouTube