必見!「ロボット庭師」が、五輪アスリートの動きを150パターン以上再現

  • 文:岩崎香央理

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14トンの玄武岩と4トンの花崗岩で構成された砂を敷き詰めた会場。周囲の砂利には、上野・寛永寺の境内と同じ石が使われているという。(C)Jimmy Cohrssen courtesy of Jason Bruges Studio

強烈な日差しと蝉の大合唱が降り注ぐ、東京・上野公園。夏休みの家族連れや美術館巡りの人たちが行き交う噴水広場に、なにやら不思議な四角い空間が出現した。25mプールほどのスケールをデッキがぐるりと囲み、内側にはまるで反物を広げたように細長く平らに、灰色の砂利がびっしり敷き詰められているのが見える。「ゴトッ…、ゴトッ…」と微かな音を立てて長辺を行きつ戻りつしているのは、なんと4台の真っ白いロボットアーム。細かな砂利にアームの先端をゆっくりと沈めては、滑らかに、そして確かなコントロールで砂にスジをつけていく。

「ザ・コンスタント・ガーデナーズ」と名付けられたこの空間は、イギリスのアーティスト、ジェイソン・ブルージュ・スタジオが日本で初めて披露するロボティック・アートのインスタレーションである。オリンピック・パラリンピック開催中の東京を文化の面から盛り上げる「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」のひとつとして、7月28日から9月5日までの期間、毎日11:00〜18:00に実施。誰でも自由に、デッキ上からロボットのパフォーマンスを鑑賞できる。

British artist and designer Jason Bruges with The Constant Gardeners, Ueno Park, Tokyo, 2021, photo by Jimmy Cohrssen.jpg
ロンドンを拠点に活躍するジェイソン・ブルージュ。ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム、テートモダン、自然史博物館など主要な芸術文化機関とも協働で作品を制作してきた実績がある。日本では初のプロジェクトとなる。「パンデミックやオリンピックの延期、渡航時の2週間隔離など、日本に来るだけでも大変な道のりがあったよ」(C)Jimmy Cohrssen courtesy of Jason Bruges Studio

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競技中のアスリートの身体の動きを計測

「ガーデナーズ」とは、4台の白い産業用ロボットたちのこと。そう、彼らは「ロボット庭師」として、枯山水の石庭よろしく砂利のカンヴァスに文様を描き出しているのだ。幾何学的な線画の正体は、競技中のアスリートによる身体の動きを計測し、解析してつなげたもの。禅の世界観と極限のフィジカルを重ね合わせ、ロボット工学によって可視化したというわけだ。


パフォーマンス初日は、直前に通過した台風8号による風雨の影響をものともせず、ロボットたちが体操競技の軌跡を砂にこつこつ刻みつけていた。プログラミングされた庭師の作業を見守るジェイソン・ブルージュは、禅ガーデンとスポーツ競技を組み合わせた発想について、次のように語った。


「アスリートたちはあらゆる鍛錬によって、動きのエキスパートになっていきます。走ったり投げたりという動作は、ひとつひとつの小さな習得の積み重ねです。同じように、禅僧が石庭の砂紋を描くには、繊細な修行を何度も何度も重ねます。最終的に完璧な動きを目指すところに、共通点があると思うのです」

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実際の競技とタイムリーにリンク

Jason Bruges Studio, The Constant Gardeners, Ueno Park, Tokyo, 2021, photo by Jimmy Cohrssen, Tokyo Tokyo FESTIVAL Special 13 (10).JPG
4台のロボットがそれぞれの可動域で絵を描き、境界をうまく繋げて、全体でひとつの作品をつくり上げる。雨が降るとレインコートでガードし、作業を続ける。暑さには強い。(C)Jimmy Cohrssen courtesy of Jason Bruges Studio

ロンドンに拠点を置くジェイソン・ブルージュ・スタジオは、建築や都市空間を大胆に使ったインタラクティブ・アートやデジタル・パフォーマンスが特徴。2017年に発表した「Where Do We Go From Here?」は、イングランド北東部の旧市街を舞台に何台もの産業用ロボットが光のダンスを繰り広げ、高い評価を得た。


「人間の動きを分析することに興味があります。テクノロジーを使い、その観察をメディアに投影したり、違うかたちに置き換えたのが、私の作品。東京では、そうした表現を実際の競技とタイムリーにリンクさせ、1ヵ月以上にわたってコンスタントに続けることが、新しい取り組みでした」

150以上ものオリンピック・パラリンピック種目の動きをプログラミングし、その日に行われる競技に合わせて、ロボットたちが軌跡を描く。複雑なパターンもあれば、シンプルなラインもあり、1時間前後かけてひとつの競技を完成させていくという。
「彼らは、もとは自動車をつくる産業用ロボットでした。前の職業とは違う命を吹き込まれ、いまはガーデナーになっている。工場での単純な動きに比べて、ここでは4台が異なる動きをしているし、もっと滑らかで優雅。アートの場で自由を得たと考えると面白い」

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150のパターンはそれぞれ一度限りのお目見え

Jason Bruges Studio, The Constant Gardeners, Ueno Park, Tokyo, 2021, photo by Jimmy Cohrssen, Tokyo Tokyo FESTIVAL Special 13 (6).jpg

上野恩賜公園内、竹の台広場(噴水広場)に設置されたインスタレーションの全景。左手の小屋がコントロールルーム。(C)Jimmy Cohrssen courtesy of Jason Bruges Studio

150のパターンは、期間中にそれぞれ一度限りのお目見えであり、完成したら平らにならして次のパターンに取り掛かるというから、一期一会だ。砂紋は消えていき、記録は塗り替えられる。今日はどんな競技が描かれているのか、ロボットたちの庭仕事を眺めに、足を運んでみてはいかがだろう。

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動画で見る、ロボット庭師の動き

磨き抜かれたアスリートたちの動きをいくつもの点でとらえ、その躍動を美しい線画へと表現。(C)Jason Bruges Studio, Music (original score): Noah Ings, Globe Town Records

ザ・コンスタント・ガーデナーズ展示概要

会期:開催中~2021年9月5日(日)
開催場所:上野恩賜公園 竹の台広場
東京都台東区上野公園 池之端三丁目
入場料:無料
開場時間:11時~18時
https://theconstantgardeners.art/