【ロマン】古代エジプトの「死者の書」布片が、2300年の時を越えてヴァーチャル合体!

  • 文:稲石千奈美

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ヴァーチャルで合体したミイラの包帯の一部。右がカンタベリー大学ティース博物館ロジーコレクション、左がロサンゼルスゲッティ研究所がそれぞれ所蔵する断片。photo: University of Canterbury

古代エジプト人は死者が黄泉の国へ無事に導かれ、死後の世界で安泰に暮らすために、呪文やテキスト、図像による「死者の書」を書写した帯状布でミイラを巻き包んで弔った。今回、ニュージーランドクライストチャーチにあるカンタベリー大学ティース博物館が所蔵する紀元前300年のエジプトでミイラを包んだ麻布の断片をオンラインで公開したところ、米国ロサンゼルスのゲッティ研究所が、同所が所蔵する断片と同じものではないかと反応。画像を合わせてみると、見事に接合したというニュースが話題となっている。

カンタベリー大学の断片を右に、ゲッティ研究所の断片を左に配置してデジタルでつなげたところ、接続部が一部欠けているものの同じものであることが判明。カンタベリー大学のエジプト美術専門のアリソン・グリフィス助教授によれば、「二つの断片には小さなギャップがありますが、図像も呪文もつじつまが合い、神官文字によるテキストの一貫性はぴったり合致しています。ばらばらになっていた断片をリモートで合体させることができたことに驚いています」

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同じくゲッティ美術館が所蔵する同時期のミイラの包帯断片。麻布に「死者の書」からの抜粋が記されている。Digital image courtesy of the Getty's Open Content Program. Gift of Mr. and Mrs. H. P. Kraus

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死者の護符的な意味を持つ布の断片には神官文字のテキストに加え、お供え用の牛を屠殺する者、死後の世界で使う家具を運ぶ者、象徴的な動物の仮面をつけた者、葬祭の女神ネフティスと豊穣の女神イシスの飾りのある葬儀舟、冥界の神アヌビスのそりを引く者などのイメージが描かれている。麻布にこのような線画を鮮明に描くことは容易ではなく、この書写は優れた技術を持った作者によるものだとグリフィス助教授は推定している。故人ペトシリスの亡骸を巻いた布は出土時にばらばらにされ、現在では世界各地の博物館や研究所、個人の所蔵になっているという。

この度のヴァーチャル合体により、断片に記されているテキストの新たな解釈が研究されていると述べるティース博物館は、今後も所蔵品のオンラインカタログ公開でさらなる将来の「マッチング」が起こる可能性が高まる。一方、ゲッティ研究所は早くから美術品や美術史分野での文献や所蔵品の電子化を率先してきており、今回のようなケースが象徴的なその成果といえるだろう。

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