「小室哲哉の不倫炎上」にはどう対処したか。前週刊文春編集局長が語る新時代の「リーダー論」

  • 文:今泉愛子

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あらゆるビジネスはいま、稼ぎ方の変革を求められている。デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速したところで、コロナ禍に突入。この荒波をどう乗り越えていくのか。この答えを説くのが本書『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』だ。

週刊文春編集長として「ベッキーの禁断愛」など数々のスクープを放った著者の新谷学は、2018年に週刊文春編集局長に就任。仕事は、スクープを獲ることから、スクープで稼ぐことに変わった。ただスクープを獲るだけでは稼げない時代なのだ。

まず大きな成果を上げたのは、「デジタルで稼ぐ」こと。文春オンラインは今や月間PVが5億に迫る巨大プラットホームに成長した。だがここに至るまで、社内外に乗り越えるべきたくさんの壁があったと打ち明ける。社内で立ちはだかる、“コンサル名人”と“コンプラ奉行”たちの存在もそのひとつだ。

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社内の軋轢は、数字が癒してくれる

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「このところ多くの企業で幅を利かせているのが、“コンサル名人”と“コンプラ奉行”だ。コンサル名人は『この業務にこんなコストをかけるのはムダです』『この部署は、この人数でこれだけしか利益を上げていない。人員が過剰です』などと経営サイドに指摘してコストカットを実行することが得意だ」(P62)

本書には、この“コンサル名人”と、事なかれ主義でチャレンジ回避を誘導しがちな“コンプラ奉行”に対抗するにはどうすればいいのかを具体的に書いてある。そしてあらゆる手を尽くした新谷はこう言う。

「社内の軋轢は、数字が癒してくれる」(P91)

リーダーとして新谷は、徹底して結果を出すことにこだわる。数字があれば、上層部も多部署も部下も説得できる。だから迷いがない。週刊誌編集長として裁判で訴えられたこともあるし、SNS上で大炎上したこともある。週刊誌の記事がもとで親しくしていた政財界の大物を怒らせることもしょっちゅうだ。それでもひるまず前に進む姿勢は見事というよりほかない。一方で、数字を追うことの怖さにも触れる。PVほしさに欲情を刺激するようなスクープばかりを出していると、『週刊文春』や『文藝春秋』の看板に傷が付く。

「儲かるなら何をやってもいいとは思わない。だが、理想だけでは食えない。自分たちが大事にするものはしっかりと守り、磨き上げながらも、「算盤」の部分にもきちんと目を配ることが肝要だ」(P100)

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炎上から組織を守るために、リーダーがすべきこと

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どんなビジネスでも、極端な儲け主義に走ると理念を見失いがちだ。著者はこのジレンマをマーケティングとブランディングという言葉を使って説明する。そしてSNS上で炎上した時は真正面から向き合った。いまや炎上はどんな企業も無縁ではない。対処を間違うと、炎上はどんどん大きくなる。かといって炎上を恐れるあまり、リスクに過敏になりすぎるのも問題だ。

著者はどうしたか。本書では、これまで最も大きく炎上したという、小室哲哉氏の不倫疑惑をスクープした『週刊文春』を例にあげる。小室氏の記事がヤフーニューストピックス(ヤフトピ)に上がった時点で、ネットの大方の反応は「病気の妻をほったらかしてけしからん」というものだった。ところが発売の翌日、小室哲哉さんが突如、引退を発表する会見をしたところで一気に潮目が変わった。

「『週刊文春は一人の天才を殺した』『週刊文春にそんな権利があるのか』『いい加減にしろ』とわれわれを非難するコメントが殺到したのだ」(P144)

だが著者は、週刊文春の武器はスクープだという信念を貫く。同時に、あらゆる手を打つ。

「ネット上での炎上の激しさを前にしたら、誰でも逃げ出したくなる。だがそこで逃げずに、怒りの声に向き合い続ける。それは自分たちを客観的に見ることにもつながる。いっぽうで、大切な幹は守る。リーダーは背中を丸めて下を向いてはいけない。常に広い視野で戦況を分析し、冷静な判断を下さなければならないのだ」(P147)

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社内で「飛ばされた」時はどう対処したか

ビジネス書に出てくるのは成功事例ばかり、と鼻白む人もいるかもしれない。しかし著者は、ずっと成功し続けているわけではない。会社員としての浮き沈みも率直に書く。

「文藝春秋に入社して以来ずっと雑誌の編集をしてきた私が、四〇代で『文藝春秋』編集部から文春新書編集部に異動になった時、社内では『飛ばされた』という評価もあった」(P241)

異動を告げた上司は、とても申し訳なさそうにしていたという。だが著者は新たな部署で実績を残し、その後、『週刊文春』編集長に就任する。そこでも順風満帆だったわけではない。在任中は3カ月の休養を言い渡されたこともあった。この時は、組織から理不尽な処遇を受けたことのある人たちが次々と連絡をくれたそうだ。このくだりは、ビジネスパーソンの人生訓として読むと面白い。

「ワークライフバランスはもちろん大事だ。だが、ここが正念場という時には、全力で仕事にのめり込む。仕事が楽しくなれば、人生だって楽しいのだ」(P267)

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『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』新谷 学 著 光文社 ¥1,760