「国産ワクチン」が、急ピッチで開発されている「舞台裏」

  • 文:野呂エイシロウ

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先日、あるウェブページが目に止まった。

国内製薬企業の新型コロナワクチン開発を一緒に応援しませんか?」という募集の記事だ。

筆者はこの原稿を書いてる時点で、ワクチン接種はまだである。既に予約済みで、近い将来にファイザー製ワクチンを打つ予定だ。とはいうものの、実は日本国内でも新型コロナウィルス対応のワクチンを開発している最中であることをご存じだろうか?速度感に関しては賛否両論あるとは思うが、必死に開発に取り組んでいる。

厚生労働省のウェブページを見ると、4つのプロジェクトが進行している最中だ。塩野義製薬のチームや第一三共のチームなど。それぞれの企業の進行状況も記載されている。(2021年3月22日更新)

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バズリーチ社の募集サイト

そんな中、バズリーチ社(東京・品川)では、先ほどの募集サイトを立ち上げ、臨床試験に協力してくれる人を募集し始めたのだ。ワクチンの被験者が、こんな感じで募集されるとは思わなかった。臨床試験とは、実際の人を使って薬や医療機器などの有効性や安全性を確認するための試験のことである。臨床試験には治験と自主臨床試験があり、今回の募集は、製薬会社が主体となって行う「治験」のことである。

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状況的に難しくなってきた、被験者の募集を支援する

早速、バズリーチ社の猪川崇輝社長に、現在のミッションを訊いた。

「まずは、ワクチンも治療薬もまだ承認されていないものが大半なので、最速で承認を得るために治験の中で核となる被験者の募集を支援すること。特にワクチンは一般接種もスタートし、治験に参加してくれる方の確保が難しくなってきています。また、治療薬も同様に自宅療養の軽症者などを対象とした場合、患者との接点がなく被験者募集が難航します。そこで『COVID-19 cohort site』を立ち上げました」

また、同社は新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン接種者追跡・安全性情報収集アプリ『voice powered by ミライク』 も8月に提供開始する。コロナウイルスワクチンに特化した副反応や接種後の健康状態報告を接種者から収集。開発元の製薬企業へ共有し、品質維持・改善を支援する目的だ。

そう、海外製ワクチンの接種が進む中、日本製ワクチンの製造協力をしてくれる人を探すのが今回のミッションである。具体的な製薬会社名は機密で言えないそうだが、筆者が想像するに、先ほどの厚労省の公開している企業のいずれか?もしくはすべてではないか?と考えている。

このバズリーチ社は、もともと患者さんと治験実施医療機関をつなぐ業界初のプラットホームや治験のさまざまな課題を解決する管理システムなどをつくっているIT企業である。今回のコロナウイルスワクチンの治験者募集でも、ITに強いことから白羽の矢が立ったようだ。

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治験に協力した人追跡調査し、効果や副作用なども調べる

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「僕らにいまできることですが、まず一つ目は、ワクチンや治療薬を最速で皆さんの手元に届けるために製薬企業の課題を支援すること。具体的には新薬承認を得るための治験の支援です。二つ目は、ワクチンも治療薬もですが、接種者や患者さんとなるエンドユーザーの生の声(副作用や副反応、治療効果などの患者主体情報)を再度製薬企業へフィードバックし、問題があればそれを最速で改善してもらうことです」と猪川社長は使命に燃える。

単純に治験参加者を募集するだけではなく、その後も治験に協力してくれた人を追跡調査し、効果や副作用などを調べる。ITの力を駆使して、ワクチンを敏速に、そして手軽に使いこなせるよう開発しているというのだ。

また、治験者もスマートフォンを通じて、常に製薬企業などの関係者とつながっていることで、安心して参加することが出来るという。

「ワクチン治験においては一般接種や職域接種もスタートし、治験に参加してくれる方の確保が難しい状況。しかし、多くのワクチンを開発する国内製薬企業は”これから”治験が行われるため準備をしています。そのために、国内製薬企業のワクチンを待つ方々に事前に登録をお願いし、いざ治験がスタートした際にスムーズに被験者募集が進むよう準備をしようとチームでアイデアを出し、この募集サービスを実装することになりました。」と先手を打った形だ。

「我々の国内製薬企業のワクチン開発を応援しよう!」をキャッチコピーとした先のサイトは、募集開始から1週間で1000名以上の方が登録。これは、国産ワクチンを持ち望んでいる人が多くいるということの現れだと言えよう。

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テクノロジーとは、”いまないものをつくるために必要なこと”だろうか。その一方で、テクノロジーだけでは解決しないことも沢山ある。テクノロジーを活用した方がより便利になることもある。

「そんな時に最善な選択肢が、僕らにとってのテクノロジーだと思います。特に医療、ヘルスケアにおいてはテクノロジーがまだまだ介入できていない場面が多いです」と猪川社長はアクセル全開である。まだまだ我々の新型コロナウィルスとの戦いは長そうだ。今後を見守りたい。

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【執筆者】野呂エイシロウ

1967年生まれ 放送作家、戦略的PRコンサルタント。学生起業家として活躍。その後編集者を経て「天才たけしの元気が出るテレビ」で放送作家デビュー。「奇跡体験アンビリバボー」などを構成。現在は企業のブレーンとして150社以上に携わる。