アーティスト松山智一がアメリカ現地で感じる、“マイノリティ”の行方

  • 文:松山智一

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Photograph by Kyle Flubacker

はじめまして。現代美術作家の松山智一です。2002年1月からブルックリンのスタジオを拠点に世界各国の美術館やギャラリーで作品を発表しています。直近では20年11月上海龍美術館、21年5月に東京のKOTARO NUKAGAで個展、また近年はニューヨークのバワリー・ミューラル、明治神宮、新宿駅などでのパブリック・アートに携わることも増えています。

2020年、僕が生活をするニューヨークはご存知の通りコロナの震源地となりました。3月に“State of Emergency”が出され、21年6月24日に解除されるまで実に1年3カ月以上におよぶ非常事態を経験しました。(その間、何度も隔離生活をしながら海外出張もしましたが……)

4月下旬から5月末まで仕事で日本にいたのですが、出発前から帰国までの約5週間でニューヨークは劇的な復活を遂げていました。ワクチンが行きわたり、完全に“Post-Pandemic”の日常に戻っています。官民一体となり社会全体でニューヨークの街を復活させようという意気込み、アメリカという国の馬力を感じる出来事でした。

7月4日の独立記念日の連休を境にアメリカは旅行ムードも完全にカムバックしています。この原稿を書いているいま(21年7月10日現在)、展覧会のためシカゴに来ているのですが、ニューヨークもシカゴも空港は大混雑。シカゴの空港ではUber(配車アプリ)が90分待ちという人もいたそうです。

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「Realms of Refuge」がテーマの展覧会。Photograph by John Lusis

シカゴでのグループ展のテーマは「Realms of Refuge」、直訳すると「保護領域」ですが、マイノリティへの抑圧的な視線を解放するという解釈が根底にあります。参加アーティストの人種や国籍もさまざまで、黒人、インド、イラン、そして日本(僕が唯一でしたが)。まさに現在のアメリカを象徴するような多人種多言語多文化の混合となっています。

アメリカは1967年まで“Interracial Marriage(異なる人種間の結婚)”は非合法とされていました。もちろん最高裁が合法と認めるよりずっと前から異人種間の結婚は存在していましたが、それにしてもたった50年ほどで人種文化言語の混じり合いがこれほどの影響力をもつようになるなんて。アメリカという国の変化を受け入れて前進する力と(飲み込む力ともいえそうですが……)、そこから生まれる文化衝突のエネルギーの大きさを改めて実感する展覧会となりました。

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展覧会オープニングレセプションの様子。Photograph by Kyle Flubacker

マイノリティであることがいろいろな意味で特別視されてきた時代から、いまはマイノリティであることへの矜持を高々と掲げられる時代となった一方で、マイノリティという定義づけ自体が難しくなっているように思います。従来の人種や言語によるカテゴリー分けがもはや当てはまらないからです。また、マイノリティは社会的容認を獲得し多数派に近づくことで、特異性や固有性から現れる強みを失うという側面もあります。

アートの世界でも「マイノリティとしての自己表現」は非常に重要なテーマのひとつとして存在し、これまでも潮流が生まれ時代を形成してきましたが、そう遠くないうちに次の転換期を迎えるのではないかと思います。

Realms of Refuge

Kavi Gupta
219 N. Elizabeth St. Chicago, IL 60607 USA
July 10 〜 October 30

松山智一

アーティスト

1976年、岐阜県出身。ブルックリンを拠点に活動 。上智大学卒業後 2002 年渡米。全米主要都市、日本、ドバイ、上海、香港、台北、ルクセンブルグなどのギャラ リー、美術館、大学施設にて展覧会を多数開催。2020 年、JR 新宿駅東口広場のアートスペースを監修、中心に7m の巨大 彫刻を制作する。

松山智一

アーティスト

1976年、岐阜県出身。ブルックリンを拠点に活動 。上智大学卒業後 2002 年渡米。全米主要都市、日本、ドバイ、上海、香港、台北、ルクセンブルグなどのギャラ リー、美術館、大学施設にて展覧会を多数開催。2020 年、JR 新宿駅東口広場のアートスペースを監修、中心に7m の巨大 彫刻を制作する。