「GR86」から考える、スポーツカーの熟成の意味とは

  • 写真:小野広幸
  • 文:サトータケシ 

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袖ケ浦で行われた試乗会でのプロトタイプ。フロントまわりのデザインは大きく変わった。

スポーツカーを「育てる」ということ。

初代モデルのデビューから9年、トヨタGR86が間もなくモデルチェンジとなる。新型の発表に先駆けて、千葉県の袖ヶ浦フォレスト・レースウェイでプロトタイプの試乗会が開かれた。

手が届く価格の本格的なFR(後輪駆動)スポーツカーは、いかなる進化を果たしたのか。

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トヨタ86も乗り比べることができた。2ℓながら重心も低く、サーキットでの走りは健在だ。

幸いなことに、試乗会場には現行モデルも用意されていたので、新旧を比較することができた。結論から記すと、エクステリアのデザインと同様、スポーツカーとしてのキャラクターは変わっておらず、キープコンセプトだ。「走る」「曲がる」「止まる」の基本性能をしっかり押さえた、だれもが安心してスポーツドライビングを楽しむことができる素直なスポーツカーだ。

基本的なキャラは変わっていないものの、中身は大いに洗練されている。大きな違いは、まず加速感だ。現行モデルが2ℓの水平対向エンジンを搭載しているのに対して、新型のプロトタイプは2.4ℓに排気量を拡大している。

最高出力は28ps増量の235psだが、比較して体感したのは、速くなったというより、気持ちよく加速するようになったということだ。低回転域のトルクに厚みがあり、アクセル操作に対するピックアップも鋭くなっている。

新型GR86には6段MTと6段ATが用意され、前者はシフトフィールが向上している。東西南北、どの方向にシフトレバーを動かしても、かっちりとした手応えとともに、スムーズにエンゲージされる。

一方、6段ATは自動変速の制御が巧みになった。アクセルの踏み加減や車速に応じて、ギアをキープするべきか、シフトダウンするべきか、シフトアップするべきかを適切に判断している印象で、簡単に言えば賢くなった。加速が心地よいと感じる背後には、オートマチックトランスミッションの地道な性能向上がある。

きれいに整備されたサーキットなので乗心地のよし悪しを言及するのは難しいけれど、コーナリングのマナーは明らかに上質になった。ハンドルの手応えを通じて、タイヤと路面がどのように接しているのかが明確に伝わってくる。

ハードコーナリングを敢行した際の姿勢の変化も現行モデルより穏やかで、こちらも速くなったというより心地よく走れるようになった。

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元祖86と言えば、AE86型のトレノ/レビン。1983年にデビューし、ライトウエイトのFRモデルとして人気を博した。このクルマに続いて日産シルビアS13などがデビューした。

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「スバルBRZ」と「GR86」。走りの味つけは大きく違う。開発の最終段階においてそのキャラクターを変える決定がされた。86が「運転の楽しさ重視」、BRZは「走りを極める」イメージだ。

冒頭に、キープコンセプトと記したけれど、それは決して悪い意味ではない。しっかりとしたコンセプトで開発された初代モデルの熟成を図っており、それが奏功しているからだ。ガラッと変えるのではなく、育てている。

スポーツカーとは不要不急のプロダクトであり、趣味の乗り物だ。だから多くの販売台数は期待できない。そこでトヨタはスバルとの協業で、このスポーツカーをつくり続けている。ちなみにデザインと企画がトヨタ、開発と生産がスバルという役割分担だ。

クルマは100年に一度の変革期にあると言われ、スポーツカーを取り巻く環境も厳しくなるだろう。けれどもこの2社には、これからもスポーツカー文化を育て続けてほしいと切に願う。