ボサノバの詩人、ヴィニシウス・ジ・モラエスの創作をたどるアーカイブが公開!

  • 文:仁尾帯刀

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今年5月27日に公開されたヴィニシウス・ジ・モラエス・デジタル・アーカイブのトップページ。©VM Cultural

海に泳ぐ魚の数ですら、
これから君にする口づけの数には及ばない
作詞 ヴィニシウス・ジ・モラエス / 作曲 アントニオ・カルロス・ジョビン
『想いあふれて(Chega de Saudade)』より

『イパネマの娘』や『想いあふれて』など数々のボサノバの名曲にロマンチックな歌詞を付けたことで世界的に知られるヴィニシウス・ジ・モラエス。その創作の軌跡をウェブ上で閲覧できる「ヴィニシウス・ジ・モラエス・デジタル・アーカイブ」が公開された。

作詞家、詩人、ジャーナリスト、歌手、劇作家、そして外交官でもあったマルチタレントなモラエスは、歌詞の走り書きやタイプライターによる詩の原稿など、約半世紀に及んだ創作で多数の文章を残した。それらの書類はモラエスの亡き後の1980年代後半から、遺族によってリオデジャネイロのカーザ・デ・ルイ・バルボーザ基金に度々寄贈され、書庫で保管されてきた。

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アーティストにして外交官、そして社交的な酒飲みとしても知られたヴィニシウス・ジ・モラエスは、自由奔放なエリートとして男の憧れの対象でもある。©VM Cultural

同基金は1992年から、研究者だけでなく一般利用者が書類を閲覧できるように開放してきたが、モラエスの創作の軌跡をさらに広く伝えるために、その孫らがデジタル・アーカイブを制作したのだった。

「文学や執筆がどのように生み出されるのかを知る上で、このアーカイブには豊富な情報があります。まるで創作の地図のようです。書面には、書き直した箇所も、間違えた箇所もそのまま残されています」と、モラエスの孫であり、デジタル・アーカイブ企画者のジュリア・モラエスがアーカイブの価値について語っている。

冒頭に一節を紹介した、ボサノバの代表曲のひとつ『想いあふれて』の鉛筆による走り書きをウェブ上で閲覧すると、ところどころ書き直されながらも、完成形とは異なる歌詞を目にできて興味深い。

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完成版とは言葉選びが異なる『想いあふれて』の歌詞の走り書き。©VM Cultural

「同じ詩でも複数の書き直しが残っていますし、引用の出典が書き記されているものもあります。ヴィニシウスが創作過程の記録に熱心だったことは、残された文章から感じることができます。創作過程を後世に残したかったのでしょう」とはモラエスの甥姪マルクス・モラエスの談。

デジタル・アーカイブ制作にあたっては、保管される書類の中から約1万1千点が、一枚一枚手作業によってスキャンされた。デジタル・アーカイブの制作の行程や思いを語った動画もまたデジタル・アーカイブのホームページ上で公開中だ。今年8月末には英語・スペイン語による字幕付きの動画も公開予定。チェックしてみてはいかがだろうか。

ヴィニシウス・ジ・モラエスの創作とデジタル・アーカイブ制作について語った動画 ©VM Cultural

ヴィニシウス・ジ・モラエス・デジタル・アーカイブ

http://acervo.viniciusdemoraes.com.br