【着る/知る】Vol.112 90年代の前衛建築を店に仕立て、東京に進出したタマキ ニイメ

  • 写真(ショップ)・文:高橋一史
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東京・町田にほど近い、実験的な住宅を改装したタマキ ニイメの直営店。

コロナ禍によって生活と働く場を見直すニューノーマル時代へと急速にシフトする以前から、過剰生産と流行提案で人々の購買欲を煽ってきたファッションシステムは終わりを迎えていた。ただしファッションは文化であり進化。新しいクリエイティブなデザインは必ず生まれ続ける。そこから何を選択するかの判断が個々に委ねられるようになったのだ。自身の気持ちに馴染むアイテムを、好きな店で厳選して長く愛用するのがこれからのファッションとの付き合いかた。流行は社会とのバランスを保つために取り入れる程度でいい(それも大切なセンス)。現在ニッポンメイドが見直されている風潮はつくり手の顔が見えて安心できることに加え、揺るぎない歴史を内包していることも大きな理由だろう。

兵庫県西脇市に店を併設する、彼らがラボと呼ぶ製造拠点を構え、地場産業であるコットンで織られた播州織(ばんしゅうおり)に新風を吹き込むタマキ ニイメ(tamaki niime)が、いまのタイミングで東京に新店をオープンさせたのも時代の後押があるのだろう。最寄り駅は町田から小田急線で新宿方面に2駅となる鶴川。この路線の利用者にはお馴染みの、車内から見える印象的な白いマユ風の建物がその新店だ。約30年に渡り個人宅だったが、このたび誰もが訪れられるファッションの店に姿を変えた。

東京23区内から外れたローカルな土地、伝統産業に根ざした工芸品、さらにどれも1点もののパーソナルな品。いま望まれるファッションのキーワードが詰まったタマキ ニイメの新店をチェックしてみよう。

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玄関で靴を脱ぎスリッパに履き替え入店する1階フロア。オブジェに掛けられたショールは各¥6,600(税込)の手頃なプライス。

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タマキ ニイメのテキスタイルで日本×西洋のモダンリビングへとアレンジされたシート。布の色と模様が際立つ仕上がりである。

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1階から外に出て屋上へと続くスペースには、洗濯物のように色とりどりのショールが並べられた。

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夏の強い日差しに映えるリゾート感覚の色彩。ビーチに持ち出したくなる華やかさだ。¥13,200(税込)から。

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1階壁際の窓は、密閉性の高い船の丸窓のよう。実験とユーモアとがミックスされた個性的な建築である。

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1階から下に降りる階段は有機的なフォルムに満ちている。右奥はフィッティングスペース。

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床から一段高い商品が置かれたスペースはなんとベッドだったもの。この部屋の元は寝室だった。ここで販売しているのは布そのもので、購入者が自由に活用する。

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フィッティングルームのラグマットとスリッパ。自宅にも置きたい洗練された色使いである。手編みラグマットは¥13,200(税込)、スリッパは¥4,950(税込)

「トラス ウォール ハウス」と呼ばれるこの建物は、キャサリン・フィンドレーと牛田英作による設計で1993年に建てられたもの。鉄筋コンクリートでできている。名称の由来であるトラスウォール工法は、まず曲げた鉄骨で土台を組み、それの両面を金網で覆ってコンクリートを流し込み形をつくる技法。どの部所もオーダーメイドといえる曲線により、粘土彫刻や洞窟のように有機的なフォルムが生み出されている。

施工主の個人住宅としてつくられ、収納棚、キッチンスペース、リビングテーブルをはじめ基本的には室内のすべてが同工法によるつくり付け。床も厳密に平面でないため、おいそれと家具も置けない。住むには家に合わせたライフスタイルを送る必要がありそうだが、ファッションアイテムの店としては唯一無二の存在感を見せる。販売空間でありつつも、穏やかにくつろげるムードを併せ持つ。人が住んでいたという事実が、工芸的なタマキ ニイメをディスプレイでなく日常のワードローブへと高める。ここでは生活とファンタジーとが入り交じる、新たなファッション体験ができるのだ。

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地下2階がもっとも広い販売スペース。ショール、服、シューズがずらりと並ぶ。

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多種多様なカラーバリエーションを持つスリッポンは見逃せないアイテム。これもサイズ限定の1点ものという、シューズの常識を覆すラインアップだ。各¥13,200(税込)

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メイド・イン・久留米で世界に誇る日本スニーカーの雄、ムーンスターが製造を担当。

アイテムの種類は、布製のたいていのものが揃うといっていい。アイコニックなショールを中心に、服、スニーカー、スリッパ、バッグ、傘、マスク、鍋つかみまで扱われている。そのほぼすべての布が量産しない1点ものという贅沢さ。自分たちで織るからこそそれが実現でき、価格も低めに抑えている。
ふだん都会的な装いをしている男性にお薦めなのが、ムーンスターが製造しているスリッポンのシリーズ。グラフィカルな色柄の布がシャープな造形になったことで、美しさがより浮き彫りになっている。その造形自体もムーンスターのクオリティで、スニーカーファンも満足のいく仕上がりだ。ただしこれも1点もので他人と被らない良さはあるものの、サイズが合わず気に入った色を履けないことがよくある。店で一期一会の出会いができなかったときは、タマキ ニイメの公式ECサイトで探そう。

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店は小田急線の路線沿いにある白い建物。住宅街のなかに突然現れる異空間だ。

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タマキ ニイメの拠点となる、兵庫県西脇市のショップを併設するラボ。周囲を山に囲まれたのどかな環境で布が生まれている。photo©tamaki niime

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ラボの内部は1960年代の旧式力織機がずらり。ゆっくりと時間を掛けて織ることで独特の風合いが出る。photo©tamaki niime

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デザイナーでブランドの代表でもある玉木新雌。布を織るためこの地に移住して活動を続けてきた。photo©tamaki niime

福井県出身の玉木さんはファッション学校の「エスモード ジャポン」で学び、大阪の商社でパタンナーとして働いた経験を持つ。自らが望むクリエイションのため2004年に自身のブランドを立ち上げた。染めた糸で織り上げる播州織の特性を生かしつつ新たな可能性を与えた。

ラボの併設ショップはガラスで仕切られ、制作の様子をオープンにしている。見学ツアーも行い、モノづくりの楽しさを人に伝える活動も怠らない。オーガニックコットン栽培、食生活に関わる野菜の栽培にも力を入れ、ブランドの活動幅はますます広がっている。

東京での発信拠点となる新店の誕生により、ミニマルでスポーティな服装が主流の東京スタイルに新たな刺激となるか、大いに注目したい。テキスタイル好きの人は、ファッションタウンのインテリアショップでは見つからない布を探しに電車を乗り継いで訪れてみよう。きっと有意義な時間を過ごせるはずだ。

tamaki niime TOKYO MACHIDA

東京都町田市大蔵町1-3
営業:11時〜17時
定休:月・火曜
TEL:042-708-9800
www.niime.jp/

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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