汗冷えも防ぐメリノ素材のウールTが、自分の常識を打ち破ってくれた

  • 写真・文:小暮昌弘

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ループウィラーのウールT。メリノウール100%の素材で、生地はコットンに比べると厚いが、着用していて暑いと感じることはない。

長いこと編集という仕事をやってきたが、そもそも取材するのが好きで、新しいもの好きな性格。取材現場などで自分が知らなかったもの、特に自分の常識を打ち破ってくれるものに出合うと、本当にウキウキしてしまう。ウール素材でつくられたTシャツ(以下ウールT)もそんなアイテムのひとつだ。夏にウールTというと「こんな時期に暑くない?」と多くの人が思うだろう。いやいや、これが意外に快適。しかもコットン以上の性能も備わっている。

私がウールTを意識するようになったのは6年前のこと。ブルックリンでアウトライアーという新鋭のブランドを取材したのだが、アウトライアーは、ブルックリンに住むふたりの青年が立ち上げたブランド。創業者のひとりが毎日自転車で会社に通っていたが、すぐにパンツの内股が破れてしまい困っていた。ならばと、自分たちで屈強で伸縮性に富んだパンツを製作、「OGパンツ」と名付けてネットで販売したところ、ブログや雑誌で紹介され、注目を浴び、やがてパンツ以外のアイテムを製造するまでに成長した。その時に、プレスの人が「これもとても人気のアイテムで、特に出張などの多い人にお薦めです」と紹介してくれたのが、ファインメリノを使ったウールT。「手入れが簡単だし、コットン以上に快適でウチのベストセラーです」と話す。

それを実践するかどうかは別として、「消臭効果もあり、何日も洗濯しなくても着られて出張に最適」とプレスは付け加えた。下着などの例を見れば秋冬物ならばウール素材を着用することは考えられるが、アウトライアーのように半袖タイプのウールTを選ぶという発想はなかった。購入を迷いながら、スルーしてしまったが、ウールTはそれからずっと気になる存在だった。

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和歌山県に残る世界的にも稀有な吊り編機を用い、メリノウール糸で編まれたTシャツ。胸にブランド名などが同色で入っている。インラインのアイテムではないので、いまは手に入らないかもしれない。

3年くらい前だろうか、ループウィラーからオーダーイベントに誘われて出かけてみたら、そこでメリノウールを使ったウールTを見つけてしまった。しかもそのメリノウールは何度か取材した山形県寒河江の佐藤繊維で紡績されている。ループウィラーで扱う製品はすべて希少な吊り編機でゆっくりと編まれた素材が使われている。もちろんこのウールTも同じ製法でつくられている。ウールTを味わう絶好のチャンスとすぐにオーダー、半年ほど経ってから仕上がったウールTは素晴らしい出来栄えだった。

天然ウール素材ならではの“人肌”の優しさがあり、メリノウールが本来もつ温度と湿度の調節作用のおかげで、夏に涼しく、冬に暖かく、蒸れない。汗冷えも防いでくれるので、真夏、エアコンで冷えた場所に入った時でも急速に身体が冷えてしまうことはない。繊維が細く、しなやかだから、素肌に着用してもチクチクすることはない。洗濯をしないで何日も着ることは試してはないが、ブルックリンのアウトライアーで聞いたことは間違いではなかった。一年中、着用できるTシャツになった。

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今年購入したパタゴニア。正式なモデル名は「メンズ・キャプリーン・クール・メリノ・シャツ」。メリノウール65%×リサイクル・ポリエステル35%の混紡素材を使用。無地とプリント入りのものがあったが、私は無地の「Plum Grey」をセレクト。他に「Sandhill Rust」「Black」の2色がある。

今年、新たに購入したウールTは、パタゴニアの製品。これまでも同ブランドの「キャプリーン」シリーズのTシャツ(これはポリエステル100%)を長年愛用してきたが、メリノウールを使った「キャプリーン」は初めて。メリノウール65%×リサイクル・ポリエステル35%の素材を使用、パタゴニアらしく供給源である動物と放牧地の両方が守られていることを保証する素材を使っていると謳われている。ホームページには「体温管理と防臭効果を発揮し、幅広い状況で激しく運動している際も身体を快適に保つ」と掲載されている。

念を入れて購入者のレビューをチェックすると、「大量の汗をかいても気にならない」「数日に一度の洗濯で充分」「メリノとポリエステル、それぞれのいいところ取りで、速乾、吸湿、防臭のバランスが秀逸」とある。これならば大丈夫だろうとネットで購入。数日して手元に届いたが、評判通りの商品であった。メリノウール100%よりも薄手で、肌触りもソフトに仕上がっているので、とても着やすい。

ポリエステルを素材に加えたのは、速乾性や耐久性を考えてのことだろう。キャプリーンシリーズの製品はどれも乾きが早く便利だが、このウールTも同様。これならば手入れも簡単だし、旅行などに持っていくのもいいだろう。

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サイズ表記などを生地にダイレクトにプリントしているので、タグなどで首元がチクチクしない。細いループが付いているのは吊り下げ用。洗濯などで便利だろうが、実際に使ったことはない。

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裾の両脇にスリット入り。裾を出したまま着用しても着てもさまになる。パタゴニアのロゴもここに付いている。

最近、イタリアの大御所ブランドの展示会に出かけたら、デザイナー本人が愛用しているウールTが並んでいた。さすがミラノ帝王とも呼ばれる大御所、素材に使われていたのは薄手のカシミアだ。

「いつも彼が着ていたネイビーのTシャツはこれなんだ」と思わず手が伸びて、素材の感触を確かめてしまった。いつの日かこんな極上素材のウールTも着てみたいものである。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。