いい未来は、テクノロジー主導では生まれて来ない

  • 文:林 信行

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川島蓉子率いるifs未来研究所と三越伊勢丹によるプロジェクト「みらいの夏ギフト」。情報家電を扱った2016年度のステージ1企画では、外部研究員として私がディレクションを行った。テクノロジー製品を“魔法”として紹介するというアイデアをもとにデザイン会社のAtMaが美しい魔法小屋の装飾をつくってくれた。コピーライターは国井美果、アートディレクションは柿木原政広。

30年以上、テクノロジーの最前線を取材してきた。パソコンやマウスを発明した偉人や思想家、アップルやグーグルなどIT企業の創業者や経営トップなども取材してきた。グーグル、ウィキペディア、ツイッターの創業者IT業界のトップ250人が呼ばれる招待制イベントに招かれたり、日本でのiPhone発売開始時に孫正義さんも登場した前夜祭イベントでMCを務めたりしたこともあった。そんな私だが、いまのテクノロジーの広がりには“危うさ”を感じている。

AIの未来も不安要素のひとつ。だが、それ以前に、人々が「テクノロジーはいいもの」とあまりに楽観的に盲信していることに“危うさ”を感じている。

確かにデジタルテクノロジーで人生に輝きを得た人も多い。海外に行く機会のない人がインターネットで世界の人と交流したり、目の不自由な人がスマートフォンを目の代わりに読書や散策を楽しんだり、いい例をあげ始めたらキリがない。

若き日のスティーブ・ジョブズはコンピューターを人々の意思を増幅する自転車「Wheels for Mind」と呼んだ。先の例の人々にはまさにそうだったと思う。しかし、自転車でより多くの自由を獲得するのが美談なのは、乗る人が善人の場合だ。同じ自転車を盗人が使えばひったくりの道具にもなる。テクノロジーはただの増幅装置。いいも悪いも関係なく増幅する。

昨今問題の詐欺メールや大企業によるプライバシー侵害は悪い側の事例だ。いい人が使っても、いい思いが増幅されるとは限らない。電子メールは世界の人と無料でつながれるが、うっかり情報漏洩の温床にもなり、直接話せばすぐに決まる話題を、いつまでも決められない不効率を生むことも多い。

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いまのIT業界をつくっている錚々たる顔ぶれが集まるオライリー社主催のイベント、FooCampWikipediaTwitterなどの創業者と経営トップが週末オライリー社の庭にテントを張ってキャンプをする。私は2007年の回に招待された。Google創業者のラリー・ペイジは自分でヘリコプターを操縦してやってきたが、キャンプはせずに出番が終わると帰っていってしまった。

いま、我々が使っているアプリやサービスなどの多くはユーザー獲得競争に勝った製品だ。そのユーザーの“量”を獲得した製品が、必ずしも“質”でも優れているとは限らない。開発時に瞬発的魅力でどのようにユーザーを獲得するかは議論がなされていても、長期視点でどのように発展させるかの議論はされていないことが多い。

1990年代にウェブが広まると、紙で出版されていた情報の多くがウェブに移行した。紙の出版を辞め、ウェブに完全移行した会社もある。その後、それらの会社がなくなると紙の情報は図書館や古書店に残ったが、ウェブの情報はサイト閉鎖とともに一瞬にしてこの世から消えた。90年代中期のIT関連のニュースは、この理由で資料が残っていないものが多い。

ちなみにテクノロジー企業が顧客獲得のためによく利用するのが“便利”という言葉だ。多くの“便利”は、その裏側で新しい不都合も生み出すが、多くの人は手遅れになるまで“便利”しか目に入らない。

20世紀、大量生産大量消費へとつながる工業化を推進していた人たちも「それが人類に豊かさをもたらす」と盲信し突き進んだのだと思う。その結果が公害病や地球温暖化につながる環境問題を引き起こした。

いまの“テクノロジー”と“便利”への盲信も、未来に対して別の負の遺産を築いているのでは? それが私の感じる“危うさ”の正体だ。

もし未来に誠実さを示せるのだとしたら、それはていねいな議論を重ねて、いいデザインを尽くすこと。“テクノロジー”を使うことを最優先とせず、まずは“いい未来”とはなにかを議論してつくる。その意図を実現する上で合致する“テクノロジー”があれば、それを使えばいいだけの話だ。だが、大きな投資マネーで動くテクノロジー界隈で、こうした議論をしている人は驚くほど少ない。だから、私はそうした考えを広めるべく、この10年ほどはテクノロジーからデザインに軸足を移し、さまざまな活動をしている。

2016年、伊勢丹新宿店で百貨店での情報家電の扱い方を模索するifs未来研究所との共同プロジェクトがあった。ディレクションを任されたが、真っ先に決めたのが商品説明で“便利”という言葉を使わないことだった。

最終的には、個々の製品を「現代の魔法」にたとえ、その製品を使う人にどんな価値を提供するかをコピーライターの美しい文章で紹介した。SF作家、アーサー・C・クラークの「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」という言葉にインスピレーションを得てのことだが、“テクノロジー”を魔法に変える進展を生み出すのは“いいデザイン”だと信じている。実際、アップルを大成功に導いたiPodiPhoneなどの製品も、採用していた技術以上に素晴らしいデザインがあったからこそ世界中の人々を魅了できたと思うし、アップルの経営者やデザイナーを幾度となく取材してその確信を得ている。

テクノロジーと人間との関係には、まだまだ新しいアプローチがあると信じている。できれば、投資マネーに先導された現在のアプローチではなく、もっと未来志向のアプローチを模索したい。

最近は、自分が本当に興味があるのは“テクノロジー”ではなく“いい未来”の方だという気付きがあった。振り返れば無意識に伝統文化などの取材もたくさんしていた。活動30周年を迎えた昨年、Twitterなど一部のプロフィールを「22世紀に残すべき価値の探求者」といった内容に書き換えた。Penという媒体には“with new attitude”というサブタイトルがついているが、私の“attitude”は、まさにこうしたものだ。

このコラムでも、それに見合う価値について論じ、紹介していきたい。

いい未来は、テクノロジー主導では生まれて来ない

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林 信行

ITジャーナリスト

1990年から最先端の未来を取材・発信するジャーナリストとして活動を開始。アップルやグーグルなどIT大手に関する著書を多数執筆。最近は未来をつくるのはテクノロジー企業ではないと良いデザインやコンテンポラリーアートの取材に注力。ジェームズ・ダイソン財団理事。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学客員教授。

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林 信行

ITジャーナリスト

1990年から最先端の未来を取材・発信するジャーナリストとして活動を開始。アップルやグーグルなどIT大手に関する著書を多数執筆。最近は未来をつくるのはテクノロジー企業ではないと良いデザインやコンテンポラリーアートの取材に注力。ジェームズ・ダイソン財団理事。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学客員教授。

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