菅田将暉の「呼吸」に学んだ! 映画初挑戦のSEKAI NO OWARI・Fukaseの心境

  • 写真:山田大輔
  • 文:立田敦子
  • スタイリング:百瀬 豪
  • ヘア&メイク: 江口洋樹

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人気バンドSEKAI NO OWARIのボーカルであるFukaseが、映画『キャラクター』で俳優デビューを果たした。売れない漫画家が殺人現場に居合わせてしまい、その殺人犯を“キャラクター”化し漫画を描いてしまったことから始まる本作。菅田将暉演じる主人公の漫画家とその人生を狂わす天才的な殺人鬼役で圧倒的な存在感を示し、注目される彼の役者としての経験とは? 


――どういう経緯でこの映画に出演することになったのですか? 


レコーディング中にオファーを頂いたんですけど、「俳優か〜っ」「殺人鬼だって」ってその時は楽しくなっちゃって、レコーディングが上の空になっちゃたんです。でも。翌朝起きて冷静になったら、やっぱ無理じゃないかって。

芝居したことないし、相手はあの菅田将暉だし。映画が好きなので、僕が未熟なことによって作品が完成度の低いものになっちゃうのがどうしても嫌だった。お断りするつもりだったんですけど、周りから「できるよ、できるよ」とまんまとおだてられ、木に登ってしまった。撮影が始まるまで1年半以上あったので、この役を演じられるかどうか、とりあえず、演技レッスンを受け、基本的なお芝居の勉強をさせていただいて。ウチのメンバーも、ライブでのパフォーマンスに役立つからと勧めてくれました。

……というといい話になっちゃってますけど、実は、途中で本当に出来ないんじゃないか、と悩んでマネージャーに電話したくらい(笑)。でも、「いま降りるなんて事故りますよ。絶対にダメです」って言われ、撮影の2ヶ月くらい前に腹をくくりました。それからは集中して役作りに取り組めましたし、楽しめましたね。


――殺人鬼の“両角”というキャラクターを演じるに当たって、どのように役作りをしたのですか?

『キャラクター』は、完全にオリジナルストーリーなので縛りがないから、“両角”はどのようにも作れる。それに彼はよく映画に出てくるような快楽殺人犯でもないから、参考にする殺人鬼とかはなかったです。最初に、この仕事を受ける時に背中を押してくれた神木隆之介から「Fukase君は優しい殺人鬼が似合うよ」と言われました。

「優しい殺人鬼ってなんだよ? だいたい優しいヤツは人殺さないよ」って思ったんですけど、なんか心にひっかかっていて、セリフを優しい声で読んで録音し自分で聞いてみたんです。その声からスタートして、少しづつ肉付けして人物像を作り上げていった感じですね。


パラレル・ワールドでのもうひとりの自分だと考えて殺人鬼に共鳴した

天才的な殺人鬼・両角を演じたFukase。両角の衣装は、Fukaseが絵を描く時に着ていた私服を参考にしている。

――凶悪な殺人鬼ですが、両角という役に共感できる部分はありましたか?

そこが難しいところだったんです。知り合いの俳優さんたちにも聞いたんですが、「どんなに共感ができないキャラクターに対しても、自分が演じきった後に少しでも好きでいれたら、それはひとつの正解だ」と言われて。その時は「(両角に対しては)共感なんてないな」と思ったんです。殺人鬼って自分の目的のために人の命を奪う、究極のエゴイストですから。


そこで(演技の)先生に相談したら「小さい頃に戻って、幸せだったこと、うれしかったこと、大切な人やことをひとつずつ頭の中から消し去ってください」って言われまして。メンタルに来そうな作業だなと思ったんですけど、3日くらいかけてひとつひとつ消していった。そしたら、僕もこうした大切なものがなかったら、両角のような人間になっていたかもしれない可能性があると気付いたんです。僕には守るものや大切なものがあって、いい出会いがあったから、法律を犯さない生き方ができているけれど、それが全部なくなってしまったら、両角のようになる可能性もあったんじゃないか、と。ある意味パラレルワールドでの、もうひとりの自分だと考えて両角と共鳴していきました。


――今後の表現活動に影響があると感じますか?

表現方法としては、表情から歌っていくことはたくさんあるので、参考になりましたね。なにせ殺人鬼の顔はすぐにできますよね。ライヴで、“殺人鬼の顔”をして歌っていい曲は、ぼくらの中で何曲かありますけど(笑)。菅田君は、カメラが回り始めてから、実際に芝居を始めるまでに、呼吸の仕方が変わるんです。本人は全然そんな気はないと言うんですけれど、その「呼吸」から感情を入れていくのっていいなと思って。実際に、歌う時にも、呼吸から歌詞の主人公になるっていうのをやってみたら、周囲からの評判がよかったですね。

「殺人鬼ばかりじゃモテなくなりますし、モテたいですからね」

両角が住んでいるアパートの一室。おどろおどろしい壁の絵は、Fukase自身が実際に手がけたもの。

――完成した映画を実際に観た感想は?

自分のことを直視できなくて、薄目で観たので、だいたい僕の中での両角はぼんやりしている。すごいカッコいい映画だなと思って、僕以外は。めちゃくちゃスタイリッシュな映画に出演させてもらって、うれしいです。


――この作品での演技が評価されていますが、俳優業は今後も続けていく予定ですか。

菅田君とかは、そう勧めてくれますけれど、一度くらい映画に出演したからといって、これから役者やっていくぞ、とかおこがましいことは言えない。どれだけ大変な仕事なのか、僕もわかったつもり。けれど、(撮影)現場がとても楽しかったし、受ける刺激も大きくて、やるべきかどうか、ではなく、やりたいかどうか、ということで言えば、またやらせていただきたいと思います。


――やってみたい役は?

この映画を観た人の中で半分は「セカオワのFukaseってやっぱりヤバいヤツなんだ」って思ったと思うので、めちゃ優しい役をやりたいですね。「やっぱりあの人、優しい人なんだ。そういえば、優しい歌も歌っているわ」となるような役とか。殺人鬼ばかりじゃモテなくなりますし、モテたいですからね。

映画では純度100%、表現者でいられた

1985年、東京都生まれ。2011年にSEKAI NO OWARIとしてメジャーデビュー。2021年にはデビュー10周年を迎え、7月21日にはオリジナルアルバムを発売予定。世界を舞台に音楽活動を展開するほか、『キャラクター』にて俳優に初挑戦。

――音楽と役者の表現はどこが違いますか?

音楽活動においては、楽曲制作やライブの構成、グッズのデザインだったり、自分でディレクションしていることが多い。なので、自分が出ているライブでも半分くらいは、客観視してしまうんですが、映画では純度100%、表現者でいられました。ライブでも、要所要所では100%表現者になる部分があってもいいのかな、と思うようになりましたね。



――俳優の仕事とは?

想像もしなかった仕事です。歌を歌うっていう経験は誰にでもある。カラオケに行けば誰でも歌える。でも役者は、演技をしたことのある人ってそういない。こんなにメジャーな仕事なのに。 “芝居カラオケ”みたいなものがあればおもしろいですよね。台本が出てきて、それを演じるみたいな。かなりコアなエンターテインメント施設になると思いますけど。新しいキッザニアみたいに、職業体験として役者っておもしろいかもしれないって思いました。


『キャラクター』
●監督/永井聡
●脚本/長崎尚志
●出演/菅田将暉、Fukase(SEKAI NO OWARI)、高畑充希、中村獅童、小栗旬ほか
●2021年、日本映画
●配給/東宝
●6/11(金)より全国にて公開
©️ 2021映画「キャラクター」製作委員会


※この記事はmadamefigaro.jpからの転載です。