「もう泣きたい!」絵本の登場人物が抱える切実な悩み

  • 写真:青野 豊
  • 文:Pen編集部

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絵本の登場人物(ヒトでない場合もあり)にも、泣きたくなるお悩みがあるのでは? シリアスなものからユーモラスな作品まで、酷い目に遭うキャラクターたちの気持ちを慮ってみました。

『さいごのぞう』井上奈奈 絵・文 キーステージ21 2014年

『いろのかけらのしま』イ・ミョンエ 作・絵 生田美保 訳

人間の都合で、環境を変えないでほしいんです

森林伐採、ごみ問題、温暖化に密猟……。人間とはこの地球に害悪を垂れ流すだけの存在なのでは? と心を痛める人も多いだろう。生きものたちの気持ちになってみよう。ビジュアルで感情に訴えかける絵本は、鈍くなった想像力に油を差してくれる。

『さいごのぞう』は、ぞうの居場所がなくなった世界の悲しさ・恐ろしさを詩的に描いたもの。作者があとがきで「『用』を担った作品」と述べる通り、売上の一部が「トラ・ゾウ保護基金」に寄付され、動物保護のメッセージを明確に打ち出す。

『いろのかけらのしま』は、さまざまな「いろ」が押し寄せる島の話。「いろ」の正体は……。その謎が解けた時の衝撃。いずれの悩みも、解決できるのは人間だけだ。

『いつまでも、鰐』レオポルド・ショヴォー 著 高丘由宇 訳 文遊社 2006年

『おともだち たべちゃった』ハイディ・マッキノン 著 なかにし ちかこ 訳 潮出版社 2018年

好きだからといって、食べられちゃうのは困るんです

稀代のアートディレクター、堀内誠一が愛したレオポルド・ショヴォー。昭和16(1941)年に初の邦訳『年を歴た鰐の話』が出版されたが、長らく知る人ぞ知る存在だった。『いつまでも、鰐』は、作者自身のイラストを伴い改稿された新装版を底本に新訳したもの。鰐、愛する蛸の足を1本ずつ食べるなんて、ヒドイ。このシュールさは、まさに大人向け。

そして題名がまんま中身を語っている、ハイディ・マッキノンの絵本。「食べちゃいたいくらい好き」とは、あくまで比喩。ま、モンスターには通じないか(人間の皮を被ったモンスターもいますけど)。おいしそうな相手と友だちになりたいなら、名作『あらしのよるに』を読んでください。

『おおかみのおなかのなかで』マック・バーネット 文 ジョン・クラッセン 絵 なかがわちひろ 訳 徳間書店 2018年

『オニのサラリーマン』富安陽子 文 大島妙子 絵 福音館書店 2015年

悪者のイメージで描かれるのは、もうたくさんなんです

きつね、おおかみ、オニは絵本の世界では“三悪”。でも、ホントにそう? 食べなきゃ生きていけないから、ねずみを食べたおおかみ。お腹の中でなにが起こっているかというと……。大阪弁の訳文が話題の「ぼうし三部作」で、人気に火がついたジョン・クラッセン。彼の手にかかると、おおかみの味方をしたくなる。

「じごくカンパニー」で働くオニガワラ・ケン氏の悲哀を描く『オニのサラリーマン』。世のお父さん、この本を子どもに読んであげよう。働くって大変なんだ、それはオニの世界も同じ。2冊に共通するのは、みんな他人の都合に振り回されて生きてるってこと。悪者も、違う立場から見れば「イイもの」かもしれないのだ。