クロエ・ジャオだけじゃない。ハリウッドで活躍する注目のアジア系監督5人

  • 文:細谷美香

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『ノマドランド』で第93回アカデミー賞監督賞を受賞したクロエ・ジャオ監督。マーベル・シネマティック・ユニバースの『エターナルズ』(2021年11月公開予定)の監督にも抜擢された。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

中国・北京生まれのクロエ・ジャオ監督が手掛けた『ノマドランド』が、今年のアカデミー賞で作品賞・監督賞・主演女優賞の3部問を受賞した。アカデミー賞監督賞の受賞は、アジア系女性監督としては史上初の快挙となった。

いま、クロエ・ジャオをはじめ、ハリウッドで活躍するアジア系監督は着実に増えている。この記事で紹介する、5人の才能あふれる監督をチェックしてほしい。

 

リー・アイザック・チョン

今年のアカデミー賞で韓国の国民的女優、ユン・ヨジョンが助演女優賞を受賞したことでも大きな話題を呼んだ『ミナリ』。韓国系アメリカ人監督、リー・アイザック・チョンが自身のパーソナルな物語を映画化し、作品賞、監督賞、脚本賞などにもノミネートされた。リーは、劇中でも描かれているアーカンソー州の農場育ち。イェール大学で生態学を専攻して医者を目指していたが、最終学年で映画製作の楽しさに目覚め、監督の道へと踏み出したという異色の経歴をもつ。

現在は『君の名は。』のハリウッド版リメイクの企画を進行中。『ミナリ』と『君の名は。』に共通しているのは、自然のなかで生きる人間の営みを描き出すという視点かもしれない。リー・アイザック・チョン監督が新海誠監督のアニメーションをいかにして実写化するのか、楽しみに待ちたい。



 

ルル・ワン

ポン・ジュノ監督が『パラサイト 半地下の家族』でオスカーを席巻し、ハリウッドにおけるアジア系監督の歴史が大きく動いた昨年。同じく賞レースで注目されたのが、『フェアウェル』を手がけた中国系アメリカ人監督、ルル・ワンだ。北京生まれでマイアミ育ち、ボストンで教育を受けた彼女はピアニストを目指していたが、映画監督志望に転向。涙と笑いに彩られたヒューマンドラマを音楽のように奏でていく手腕は、彼女のルーツと関連しているのではないだろうか。

自身の経験をベースに、余命宣告を受けた祖母への“嘘”をモチーフにした『フェアウェル』が高い評価を得て、『Variety』誌の“2019年に注目すべき監督10人”にも選ばれている。パートナーは『ムーンライト』などで知られる、バリー・ジェンキンス。



 キャシー・ヤン

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』で、DCエクステンデッド・ユニバース作品を手がけた初のアジア系女性監督となったキャシー・ヤン。ジャ・ジャンクーがプロデューサーに名を連ねる18年の『Dead Pigs』がサンダンス映画祭審査員特別賞を受賞、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』で主演・製作を務めるマーゴット・ロビーの目に留まり、監督に大抜擢された。

中国で生まれ、4歳でアメリカへ。香港でも学び、プリンストン大学卒業後は、ウォール・ストリート・ジャーナルの海外特派員として働いたこともある才媛だ。次回作は、『ミナリ』『フェアウェル』などを配給したA24が製作する『Sour Hearts』。少女を主人公にした作品で、エネルギッシュなアクション映画とはまた違う一面を見せてくれそうだ。また、SFラブストーリーの『The Freshening』の監督を務めることも発表されている。



ジョン・M・チュウ

キャスト全員がアジア系の映画でありながら、全米で異例ともいえる大ヒットを記録した『クレイジー・リッチ!』。現代の豊かなアジア人たちの身分違いの恋を描くラブコメディを成功に導いたのは、台湾と中国出身の両親のもとに生まれたジョン・M・チュウ監督だ。シリコンバレーで生まれ育った彼は、南カルフォルニア大学で学び映画監督に。

『ステップ・アップ2:ザ・ストリート』『GIジョー バック2リベンジ』などを手がけ、『クレイジー・リッチ!』でついに旋風を巻き起こした。最新作はブロードウェイミュージカルを映画化した『イン・ザ・ハイツ』。ヒスパニック系がメインキャストを務める作品をアジア系のジョン・M・チュウが監督することは、ハリウッドの多様性の時代を象徴するひとつの出来事といえそうだ。




アリス・ウー

アメリカの田舎町で暮らすレズビアンの中国系女子高生を主人公にした、瑞々しく知的なNetflixオリジナルの青春映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』。台湾からの移民である両親のもとに生まれてカリフォルニアで育ったアリス・ウー監督は、マサチューセッツ工科大学などで学んでから映画の世界へと進んだ経歴を持つ。

2005年の『素顔の私を見つめて…』を発表以降は映画界から退いていたが、『ハーフ・オブ・イット』で復帰。レズビアンをカミングアウトしているアリス・ウー監督が紡ぐパーソナルな物語には、生きづらさを抱える人たちへの切実なメッセージが感じられる。移民やセクシュアリティについての問題を織り込みながら、自分らしさとはなにかを繊細に描き出す才能は、いまこそ必要とされている。