読み聞かせにぴったりな、親子の情を描いた絵本9冊

  • 写真:青野 豊
  • 文:松浦 明(edible.)

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母子関係だけでなく、近年では父子を見つめる絵本も登場。父子を師弟に置き換えて「超えるべき壁」と捉えるのも、創作らしい視点だ。読み聞かせにもぴったりな9冊を堪能あれ。

『悲しい本』

悲しみに溺れそうになった時、裏腹な笑顔でごまかそうとする男の顔は、悲しいほどに歪む。愛息の死。底知れぬ悲しみの中で自暴自棄になりかけながら、必死に前を向こうともがく父親。堪えがたい現実に腹を立て、立ち止まっては哀れな自分を傍観するのは、著者自身なのだろうか? 徐々に感情移入していく読み手の思いと共鳴するかのごとく、ささやかな光をもって主人公に寄り添うロウソクの炎に、ぐっとくる。

マイケル・ローゼン 作 クェンティン・ブレイク 絵 谷川俊太郎 訳 あかね書房 2004年

『ちょっとだけ』

本当はママに甘えたい盛りの主人公、なっちゃん。4歳くらいだろうか。弟が生まれて世話に翻弄される、いつもと違うママの様子を子どもなりに察知し、なにかあるごとに「ちょっとだけ」頑張ってみる。甘えたい気持ちをぐっと抑えて母を気遣う姿がなんともいじらしい。そのことに気づいてあげられる親の愛情に読み手は深く安堵し、子へ愛情をはっきりと伝えることの大切さに改めて共感するはず。児童虐待事件など心塞ぐ話が多い、いまこそ読みたい本。

瀧村有子 作 鈴木永子 絵 福音館書店 2007年

『ねつでやすんでいるキミへ』

子育て中の親ならことに、共感する点の多い一冊だろう。都会暮らしの中で、ついつい心の余裕を失う親たち。熱を出した子どもの寝顔を見つめる親の声が、本書から聞こえてくる。「こないだはちょっと叱り過ぎちゃったなぁ」という反省。気づけばじわじわとこみ上げる、我が子への思い。「でも わかってほしい わたしは キミを あいしているよ」。そのひと言にじんとくる。漫画家しりあがり寿が、普段とはひと味異なるタッチで描く絵と文が新鮮!

しりあがり寿 作・絵 岩崎書店 2013年

『大きな大きな船』

「父さん、ぼく父さんに母さん役までやってほしいと思わないよ。父さんは父さんをやっててくれたらいい」。仕事人間だった父と、どこか大人びた息子。なんらかの理由で母親がいなくなり、新しい生活を始めた父子の対話がいい。息子が吹いたシャンソン「ラ・メール」の口笛に不意をつかれ、思い出をフラッシュバックさせる父。ぶわっと感情がこみ上げる場面には泣ける。表紙を開くと現れる見返しのデザインも秀逸。

長谷川集平 作 ポプラ社 2009年

『チリンのすず』

『アンパンマン』でお馴染みの、やなせたかし。絵のかわいさに見過ごされがちだが、その作品のテーマは深い。羊のチリンは、母の仇である狼ウォーを倒すため、あえてその弟子になるのだが……。自己犠牲、憎しみに支配される苦しみ、仇なのに師でありいわば父となる存在との対決。これって『スター・ウォーズ』?そう、憎しみはなにも生まない。1978年公開の映画がまた、原作とはひと味違う出来栄え。こちらもぜひ!

やなせたかし 作・絵 フレーベル館 1978年

『おこりんぼママ』

ママに怒られると、子どもは、身体がバラバラになりそうに感じるらしい。その感覚をうまく絵にした冒頭から、母子の情の通い合いを突拍子もなくユーモラスに描いている。本書でも、ママに怒鳴られたペンギンの「ぼく」の身体は、バラバラになって四方八方、一部は宇宙にまで飛んでいってしまう。そんな主人公を救えるのは、やっぱりママだけ。怒った後のフォロー、大事です。どこかとぼけた、ほのぼのと温かみのある絵もいい。

ユッタ・バウアー 作 小森香折 訳 小学館 2000年

『かあさんのこころ』

カバー袖で、本書は「ちいさな自伝」でもあると明かす著者。その姿が主人公のクマに託される。幼くして母を亡くし「いつも かなしみの そこで うずくまっていた」ぼくは、その悲しみをひきずったまま、気づけば孫をもつ年に。娘が孫に頬ずりする姿に、ようやく「かあさんのこころ」に気づく。自分の悲しみが母を悲しませているのだ、と。悲しむばかりでは、死者は浮かばれない。味戸ケイコのやわらかな絵のタッチがまた、涙腺をゆるませる。

内田麟太郎 文 味戸ケイコ 絵 佼成出版社 2005年

『パパといっしょ』

「パパのおはなしって どんなえいがよりも わくわくするよ」。こんなこと、愛する娘に言われたら、世のパパたちはきゅうんとせずにはいられないだろう。娘のためならなんでも懸命にこなす、大きくて優しくて愛情深いパパと、そんなパパが大好きな娘の、かけがえのない時間が描かれる。アースカラーを多用する水彩画も、どこか心地よい。ソーシャルメディアに投稿した作品をきっかけに話が進んだという、イマどきな刊行の経緯も興味深い本。

スーシー 文・絵 高橋久美子 訳 トゥーヴァージンズ 2019年

『パパはジョニーっていうんだ』

両親の離婚で揺れる子ども心が綴られる。ティムはパパが大好きだったのにママと新しい町へ移り、以来、パパと会っていない。久々にふたりきりで過ごすことになった父との一日を通じて、ままならない大人の事情を酌み始める様子がいたいけだ。パパを周囲に自慢しまくり、「時間がとまっちゃえばいいのに」「電車も、うごきださないといい」と心の中で呟くティム。思いはパパも同じこと。最後、パパを見送るティムの複雑な表情に、胸が締めつけられる。

ボー・R・ホルムベルイ 作 エヴァ・エリクソン 絵 ひしきあきらこ 訳 BL出版 2004年