各地に残る文化遺産を「宿」に再生! ニッポニア ホテルの魅力とは?

  • 写真:松川真介(P1)
  • 文:大石智子
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庭は縁起ものや厄払いにあふれ、東西南北それぞれに意味のある植物や石像が置かれている。瓦には大黒天や恵比寿天の姿もある。

2009年に始動した「ニッポニア」は、全国に点在する歴史建造物や集落を宿泊施設として蘇らせる地方創生プロジェクト。日本各地に24軒の宿を展開し、かつては商家町や宿場町、酒蔵であった場所に泊まることができる。いずれも古きよき趣を残して、ていねいにリノベーション。現代的な快適さは備えた上で、その土地の歴史に浸る時間をもたらしてくれる。泊まることでタイムトラベルを味わえるようなそれらの宿は、地域ごとのディープなアクティビティも醍醐味である。

18代当主・木村浩幸。以前は大阪でアパレル会社に勤めていた。蔵の古文書を読み込むため、古文書教室に5年間通ったという。

奈良最古の醤油蔵に泊まり、町と醸造の文化を知る。

昨年8月、田畑に囲まれた奈良の静かな里に「ニッポニア 田原本 マルト醤油」がオープンした。その名の通り、宿となるのは醤油蔵。そこは1689年に創業した奈良最古の醤油蔵であるが、醤油づくりは70年間止まっていた。そんな蔵が復活し、宿となったきっかけは7年前に遡る。当時、会社員として働いていた18代当主・木村浩幸が館内を片付けていた時のことだ。

「祖父がいちばん大切にしていたたんすから、ていねいに畳まれた醤油の前掛けが出てきたんです。マルトの印がきれいに見えて、紐がそっと置かれ、凛として訴えかけるものがありました」

「マルト」の暖簾が掛かる正門。東側には初瀬川に近い裏門があり、昔はそこから船で醤油を出荷していた。

4室あるメゾネットのひとつ「初瀬」の2階寝室は、巨大な梁が迫力満点。もとは1階が大豆倉庫、2階は醸造職人の寝室だった。

チェックインを行う部屋も「大和棟」と呼ばれる奈良の伝統的な形式で建てられている。

地元産の原材料による天然醸造にこだわっていた祖父は、戦後の原料不足を理由にやむなく醤油づくりを停止。その背景を知る者としてスイッチが入り、一念発起。残された1000点にもおよぶ古文書を読み解き、梁に棲みつく菌を発見し、ついに70年ぶりの醸造まで漕ぎ着けた。続けて宿をつくったのには、「醤油蔵を守ると同時に、地域の文化を伝えたい」という木村の想いがあった。田原本町は二千年続く風景を残す里で、醤油づくりはこの地の食文化を表す伝統。より深く知ってもらいたいと思えば、バスで来ての簡単な見学では足りない。「泊まってもらい、ゆったり過ごす時間があってこそ、感じられる歴史の奥行きはあるはず」と、地域住民と話し合い宿を開業した。

築140年を超える蔵の中に設けた7つの客室は、もとは材料庫や府庫(文書・財物を入れていた建物)などで趣たっぷり。滞在中に必須のアクティビティが「醤油しぼり体験」で、搾りたてのひと雫は感激するほど風味が豊か。また、案内してもらう田原本町の朝散歩は大和時代にまつわる目から鱗な話の連続だ。散歩後の朝食にも醤油が出され、卵かけごはんのおいしさもひとしお。歴史ある蔵が教えてくれるのは、未知なる奈良の魅力、そして日本が誇る発酵文化なのだ。

醤油蔵。「醤油しぼり体験」はこの蔵全般と新旧醸造所の見学がセット。敷地内には江戸時代からの道具も多く残る。醤油の酵母菌を守るため、宿泊者は到着の1週間前から納豆を食べないようにという注意がある(納豆菌が非常に強いため)。

朝食は地元の野菜と搾りたての醤油を使った季節の献立。天然の醤油には300種類の風味があると言われるが、納得するほどの深い味わいで、もろみも格別。

卵かけご飯も/絶品。夕食の提供はないが、近場で評判の食事処を教えてくれる。

NIPPONIA 田原本 マルト醤油

奈良県磯城郡田原本町伊与戸170
TEL:0744-32-2064 
全7室 初瀬¥55,000(税込)〜、府庫¥51,000(税込)〜 ※朝食付
アクセス:天理東ICからクルマで約20分、近鉄・田原本駅からクルマで約10分、無料送迎有(要予約)
https://maruto-shoyu.co.jp

全国各地に展開するニッポニア ホテル


NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町──歴代藩主を魅了した、美しい景色と風情ある町並みに浸る。


愛媛県・大洲城の城下町を丸ごとひとつのホテルと見立てて開業。歴史的な邸宅や料亭などをフロント、レストラン、11の客室にリノベーションした分散型のホテルで、町人のような気分を味わえる。「伊予の小京都」と呼ばれる城下町は情緒があり、国の重要文化財である「臥龍山荘」や一寸法師にゆかりのある「少彦名神社」など名所も点在。町歩きを楽しめる。季節によっては肱川でのウォータースポーツも気持ちがいい。また、日本で初めて城(大洲城)の天守閣に宿泊する特別プランもあり、その宿泊客は鉄砲隊による祝砲など江戸時代の入城シーンも体験できる。

そんな歴史探訪にも最適な城下町にして、レストランで提供する料理は、海・山・川の幸を用いた地産地消のイノベイティブフュージョンという点がユニーク。日中は江戸〜明治の文化に浸り、夜はモダンなディナーで舌鼓という新旧コントラストも、ここならではの粋な体験だ。

4名まで泊まれるプレミアルームは100㎡以上ある。1棟貸し切りの部屋からは大洲城の眺めを独占でき、春には絶好の花見スポットに。

それぞれの客室は町の中に点在しており、フロントとレストランは大洲城の目の前に立つ歴史的な邸宅「浦岡邸」に入っている。

NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町

愛媛県大洲市大洲888 
tell:0120-210-289
全11室 コンフォート¥67,760(税込)〜、グランド¥72,600(税込)〜、プレミア¥84,700(税込)〜 ※サービス料込、夕・朝食付
アクセス:大洲南ICからクルマで約10分、
JR伊予大洲駅からクルマで約5分、無料送迎有(要予約)
www.ozucastle.com


NIPPONIA 美濃 商家町──和紙の聖地で感じる、日本のものづくりの美学。

美濃の商家町は岐阜で1300年以上の歴史を誇る美濃和紙を生業としていた人々の町。宿となるのは明治から大正に栄華の極みを迎えていた和紙原料問屋の元邸宅と3つの蔵である。800坪の敷地内に築100年を超える建物が点在し、数奇家造りの母屋をはじめ、金庫蔵、和紙の原料蔵など全10室。母屋は切り石を配した石畳の先に立ち、主人が茶人だったため茶室も備え、奥座敷の障子を開ければこだわりの庭園が広がる。茶趣に満ちた空間は光の陰影がドラマティックで、暗く落ちる格子や柱越しに見える緑が美しい。蔵は柿渋を塗った板堀で仕切られているので外からは存在がわからず、離れとしてのプライベート感が守られている。

また、全室に美濃和紙によるアートが飾られ、障子には真っ白な本美濃紙、壁には表情豊かな手漉き和紙が貼られるなど、紙の聖地を体感できるディテールも秀逸。歴史と同時に、伝統を受け継ぐ現代の職人の心意気も醸されている空間だ。

スイートルームのひとつ「満月」。母屋をスイートルーム6室に、4つの蔵をそれぞれ1棟貸しの客室に改修。当時のままの建具や畳、床なども必見。

商家町は重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。最も大きな蔵は和紙の魅力を伝えるコンセプトストアとして運営。

NIPPONIA 美濃 商家町

岐阜県美濃市本住町1912-1 
TEL:0575-29-6611
全10室 大極殿¥35,596~(税込)〜、満月¥43,120(税込)〜
アクセス:美濃ICからクルマで約10分、長良川鉄道・美濃市駅から徒歩約15分
https://stay.nipponia.or.jp/areas/mino


NIPPONIA HOTEL 八女福島 商家町──華やかな八女茶の香りに包まれ、心身を癒やす旅を。

福岡県八女市の中心である八女福島は安土桃山時代に築かれた福島城を起点に町が形成され、経済の核として発展した町。資源が豊かで流通の拠点であったため、さまざまなものづくりの職人が集う地となり、「八女」の名を冠する茶、提灯、和紙、和ごまなど、多くの技術が受け継がれている。そんな町に残る酒蔵や老舗茶舗が改修を経て、八女茶をコンセプトにしたホテルに生まれ変わった。

3棟7室からなる客室の中で、プレミアルームは元老舗茶舗をリノベーションした部屋で、かつて製茶に使っていた器具が多く残る象徴的空間。その部屋はもちろん、すべてのゲストが銘茶の歴史を体感できるよう、茶づくしの滞在を約束する。チェックイン時の煎茶の出迎え、茶風呂、老舗茶舗のアメニティ、八女中央大茶園の見学、併設するフレンチでのティーペアリング、目覚めの朝抹茶……。新鮮な茶葉の香りに包まれながら、職人の町ならではの趣を堪能できる。

酒蔵など歴史ある建物を改築した5室のスタンダードは、ゆったり過ごせる居間を備える。優しい香りの檜風呂には、入浴剤として茶葉も用意。

フロントとレストランが入った元酒蔵の「喜多屋別邸」。併設するバーでは蔵元・喜多屋の日本酒や焼酎を提供している。

NIPPONIA HOTEL 八女福島 商家町

福岡県八女市本町西京町204
TEL:0120-210-289 全7室 グランド¥58,080(税込)〜、プレミア¥77,440(税込)〜 ※夕・朝食付
アクセス:八女ICからクルマで約10分、JR羽犬塚駅からクルマで約15分
www.yame-fukushimastay.com


NIPPONIA 甲佐 疏水の郷──築130年となる町の交流場を起点に、地域の人々とつながる。

甲佐町は熊本県の中央に位置する水と緑に恵まれた地域。肥後熊本藩主・加藤清正による治水事業により耕作地が整備されて発展した町だ。現在でも、中心部の緑川をはじめ町中に水路が張り巡らされ、流れる水とともに暮らしを営んでいる。

宿は築130年以上の質屋やたばこ屋だった「旧松永邸」と新築1棟からなる全3室。商店街の入り口に立ち、地域の交流場所であった建物の歴史をもう一度蘇らせるために開業された。コンセプトは「地域とゆるやかにつながる縁側」。建物は水路沿いに縁側をもち、そこで水の流れを眺めながら茶を嗜む時間は甲佐町ゆえののどかなひと時。宿から一歩外に出れば昔懐かしい商店街があり、宿泊者だけが使える特別なパスを連携店舗に見せると、おまけがもらえる仕組みも整備した。支配人や朝食提供店など宿にかかわる人ほとんどが町内在住者。泊まることで自然と地域とつながる宿は、古きよき町の温かさを伝えてくれる。


母屋にある「煙 KEMURI」は縁側をもつメゾネットの客室。新旧2種類の階段があり、昔ながらの急で狭い階段や土壁がノスタルジックだ。

右が新築の「継 TSUGU」で、母屋にあるもう1室は「質 SHICHI」。どれも広々とした2階建てで、五右衛門風呂付き。

NIPPONIA 甲佐 疏水の郷

熊本県上益城郡甲佐町大字岩下字東園82 TEL:096-234-8871
全3室 各¥45,888(税込)〜 ※朝食付
アクセス:御船ICからクルマで約15分、熊本空港からリムジンバスで約30分、JR熊本駅から熊本バスで約60分、「甲佐」停留所から徒歩約1分
http://nipponiakosa.jp

※Pen2021年2/15号「物語のあるホテルへ。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、掲載している内容から変更になる場合があります。