源泉数は2200を優に超え、湧出量は比類なき豊かさ。日本一を誇る温泉の街・別府の山の麓に、大地から隆起したような赤茶色の建物が現れた、ガレリア御堂原だ。大巻伸嗣や西野壮平など、第一線で活躍中の作家の作品を何十点も擁して昨年12月にオープン。社長、林太一郎は言う。
「湯に浸かる体験を、いかに特別なものにするか?を考え抜きました」
まず、ガレリア御堂原に先立ち2015年に開業したテラス御堂原の設計者、ダブラエムの光浦高史に声をかけた。断層の崖という敷地から、光浦は「削り出された大地」として壁の群れが建物をかたちづくるような構造を考案。廊下は路地のように曲がり、ただ歩くだけでも目に楽しみがあるように。心休まる水盤は林のリクエストだ。
客室は半露天風呂付きで、浴槽はスイートを除き、黒御影石を彫ってくり抜いてつくった。職人の手による絶妙な石のカーブが背をそっと支える。湯はやわらかく、もたれれば包まれるような安心感──未知の心地よさの秘密は? 「石の遠赤外線効果もあるでしょう」と林。温泉も石も、大地から産まれたものゆえ相性がいいと話す。
削り出された大地のような、壁の群れが立ち上がる。
温泉だけでも魅力にあふれるが、なぜそこにアートだったのか?
「世界の人々が楽しめるものを考えたら、アートしかないと。アートは言葉を超えて通じるものですから」
キュレーションは2005年より別府でいくつものアート・プロジェクトを立ち上げてきた山出淳也に依頼。展覧会や制作拠点など、大分と関わりのある作家に声をかけた。驚くのは、ほとんどが別府をモチーフとした新作であること。大巻伸嗣は別府の歴史や記憶を作品に刻み、西野壮平は別府で100湯以上を撮影、島袋道浩は地元の岩と食事をともに楽しめる体験型の作品『イワオ』を制作。山出は「ホテルの中で作品と作品が対話をするような関係性も生まれたように思う」と語る。
さらに林社長には、次の構想がある。「アートツアーや、鶴見岳のアクティビティを考えています。お客様と別府の人々の間で『交流』が生まれたら再訪したくなりますから」
夜は身を湯に預けて星を眺めよう。翌日、アートに心が波打つのを感じた昼下がり。再び湯に浸かれば、視線の先は空と別府湾。走る船を見るうち心がほどけていく。ガレリア御堂原では2泊以上が正解だ。
※Pen2021年2/15号「物語のあるホテルへ。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、掲載している内容から変更になる場合があります。
ガレリア御堂原
大分県別府市堀田5組
TEL:0977-76-5303
全35室 ツイン¥38,500(税込)~、2ベッドルームスイート¥110,000(税込)~
アクセス:大分空港からJR別府駅まで空港バスで約50分、JR別府駅からクルマで約15分、別府ICからクルマで約3分
https://beppu-galleria-midobaru.jp