コロナにも負けず営業中。蒲田で飲むならまず行きたい2軒。

  • 写真:大河内禎
  • 文:今村博幸

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イナダは新鮮そのもの。熱めに燗をした酒に焼いたイカを入れたイカ酒との相性は憎らしいほど。酒飲みが好む味だ。

開店直後から賑わう店で、まずは気負わずに一杯。

暖簾をくぐり席について注文するまでに、2度圧倒される。まずは、長く太い根を張ったようにどっしりと建つ4階建てビルの存在感。そして入店し壁という壁に張られた数えきれない短冊に記されたメニューを目にした時。どちらも紛れもなく昭和の景色だ。

無限に思えるつまみの中から選ぶべきはたくさんあるが、まずお薦めしたいのが唐揚げだ。噛んだ瞬間のカリッとした食感が食欲中枢を刺激する。噛み締めると、上品でほんのりにじみ出る醤油風味と肉汁で、幸福感が身体を包む。日替わりのお薦めの刺し身も「この値段でいいの?」というほどの鮮度だ。チューハイでも日本酒でも無理なく溶け合っていく。炙ったイカを熱めの燗酒に投入したイカ酒は、社長奥山稔さん押し。イカの香りが出た日本酒は、飲兵衛の心を激しくゆさぶる。開店当時から変わらない店のスタイルをこれからも貫きたいと奥山さん。

「親父が好きだった『蒲田にある鳥万』を、そのまま残したいって思うんです。僕もこの店が好きだから」

値段も、店内の様子も昭和のまま。基本的なスタンスは絶対に変えない。変えてしまえば店は終わる、とさえ奥山さんは思っている。

「たとえば、昔から蒲田には立ち飲み屋がたくさんありますが、親父の時代から、うちはそれをしません」

理由は簡単、座ってゆっくり飲んでほしいからだ。開店間もない店内には既に赤い顔をした客がびっしり。鳥万の人気を如実に物語る光景だ。

「おいしいものを安く、食べて飲んでいただけたら、それで僕は幸せです」

一切気取らず、肩に力を入れる必要もない。好きに飲んで食べて帰るのみ。きわめてシンプルな酒場だ。

●大衆酒場 鳥万
東京都大田区西蒲田7-3-1
TEL:03・3735・8915
営業時間:16時〜23時(月〜土)、15時〜22時(日・祝)
定休日:年末年始

開店直後から人で埋まる1階席。いっぱいになると2階席へ。テーブル席の間を、ベテラン女性従業員が縦横無尽に動き、客の注文を魔法のようにさばいていく。

新しい店が立ち並ぶ西口の一角に堂々たる姿の鳥万ビル。すべての年齢層の酒飲みたちが、次々にやってくる。店内は常にいっぱいだ。

パチパチと心地よい音が、「おいしいよ、おいしいよ」という囁きに聞こえる。

天ぷらはお好みでも盛り合わせでも注文可。「酒の肴としても最高だよ」と齋藤さん。エビ・キス・野菜・あなごなどの盛り合わせ

気さくな大将の笑顔と職人技を堪能する。

人と人が直につながっていた時代。間に入るのはせいぜい電話、が昭和だった。ただ、築かれた関係はきわめて強固。天ぷら「天義」の主人齋藤勝秀さんは、その関係があったからこそ店を続けてこられたと力を込めた。

「最初に就職したのが銀座で、その頃から贔屓にしてくださった、銀座や六本木、田町あたりの昔馴染みの方がいまでも顔を出してくれるんです」

愛知県の三河から15歳で東京に出てきたのが1959(昭和34)年。すぐに天ぷら屋に就職し、以来天ぷら一筋の齋藤さんは、揚げること自体が楽しいと頷いた。

「仕事は好きですね。自分に合ってるとも思ってます。でもね、なにより楽しいのは、昔から来てくれるお客さんと、ざっくばらんに話ができることです。カウンターだけの小さな店だからできるんだよね」

馴染みだけではない。一見の客に対しても気さくに話しかける。

「だって、黙って食べるよりも話しながらのほうが楽しいでしょう」 

齋藤さんの天ぷらの美味さの理由は、まず第一に油にある。使うのは、サラダ油とごま油を独自の配合で合わせたもの。新鮮なネタに衣をつけて油に投入し、高めの温度でサッと揚げる。

「火が弱いと脂っこくなる。油切れのよい胃もたれしない天ぷらを信条に、この厨房に立ってきました」

エビやキス、野菜などネタ本来の味が衣に閉じ込められ、噛むと素材の香りとともにあふれ出す。

「つまみとしての天ぷらも乙なもの。目の前で揚げたてを、蒲田価格で食べられるのが当店の自慢です」

●天義
東京都大田区西蒲田7-667-12
TEL:03-3738-4712
営業時間:11時30分〜14時30分、17時〜22時
定休日:年末年始

笑顔で話していた齋藤さんが鍋の前に立った瞬間、厳しい表情に変わった。

食い倒れ横丁に入ってすぐ。入口には手書きで「おかげさまで創業51年」と書かれた張り紙。齋藤さんの客に対する感謝の呟きだ。

※こちらは2020年12月15日(火)発売のPen「昭和レトロに癒されて。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
※新型コロナウイルス感染防止などの諸事情により、店舗の営業時間、サービスの変更などが行われる場合があります。訪問前に確認ください。

コロナにも負けず営業中。蒲田で飲むならまず行きたい2軒。

  • 写真:大河内禎
  • 文:今村博幸

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