歴史の中で発掘されぬまま、数多く埋もれている愛を照らす『アンモナイトの目覚め』。

  • 文:児玉美月

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監督はヨークシャー地方を舞台にした長編デビュー作『ゴッズ・オウン・カントリー』で脚光を浴びたフランシス・リー。労働者階級に生まれ、独学で地質学などを学んだ実在の古生物学者、メアリー・アニングの生涯を基に脚本を書き上げた。© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

【Penが選んだ、今月の観るべき1本】

1840年代、海辺の町ライム・レジスに生きるひとりの古生物学者がいた。メアリー・アニングという名のその女性は、化石収集家に連れられた妻シャーロット・マーチソンと出逢う。心を病んでいたシャーロットの療養を夫から頼まれたメアリーは、それをしぶしぶながら受け入れる。そして浜辺をぎこちなく歩き始めたふたりの距離はやがて縮まり、そう時間もかからないうちに特別な紐帯を結んでいく。

禁欲的な色彩からなる画面は、彼女たちが踏み歩く浜辺の砂利がもついくつかの色だけで塗布されているように見える。美しい旋律は、ごく限られた煌めきの時間にしか鳴り出さない。徹底して抑制された演出は、感傷的な気分を冗長に引き伸ばしたりしない。男性権威社会において、階級の異なる女と女が、いかに対等に向かい合い、生きていけるのか──。そんな主題を厳格なまでに繊細に編み上げていく本作の手つきは、セリーヌ・シアマが女たちの連帯を鮮烈に描いた『燃ゆる女の肖像』(2020年)の奇跡を、いま一度思い起こさせる。

ある日、ふたりはその大きさのあまり諦めかけた岩を、手を貸し合って運び出すことに成功する。それはたったひとりの世界に生きていたメアリーが、他者の存在を実感した瞬間だった。

実在のメアリーが誰を愛し、誰と生きたかは明らかにされていないと言われている。しかし、そんなメアリーに着想を得て現代に生まれた『アンモナイトの目覚め』という物語は、見過ごされてきたひとつの可能性に新たに光を与えるものでもある。女と女の愛は、歴史の中で発掘されぬまま、数多く埋もれているはずなのだから。こうして「目覚め」なければ、いつかどこかで生きていたかもしれないメアリーやシャーロットは、泥に塗れ、硬直したまま、人知れずいまも眠り続けていただろう。

© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

『アンモナイトの目覚め』
監督/フランシス・リー
出演/ケイト・ウィンスレット、シアーシャ・ローナンほか 2020年 イギリス映画
1時間58分 4月9日よりTOHO シネマズ シャンテほかにて公開。
https://gaga.ne.jp/ammonite/

歴史の中で発掘されぬまま、数多く埋もれている愛を照らす『アンモナイトの目覚め』。

  • 文:児玉美月

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