人の愚行が害悪をもたらした、 衝撃的な7つの科学的事例。

  • 文:今泉愛子(ライター)

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『禍いの科学 正義が愚行に変わるとき』ポール・A・オフィット 著 関谷冬華 訳 大沢基保 日本語版監修 日経ナショナル ジオグラフィック社 ¥2,200(税込)

【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】

科学の分野は、人間が知識や経験を蓄積することで進化し続けている。その科学に対する信頼に冷や水を浴びせるのが本書だ。35年間にわたりワクチンの研究を続け、科学の力と限界を知る著者は、人間が運用を間違えたために利益よりも遥かに多くの害悪がもたらされた7つの科学的事例を紹介する。内容はまさに驚くべきものだ。

たとえばマーガリンはバターの代用品として生まれたが、それはアメリカ人最大の死因である心臓病が、脂肪やコレステロールの少ない食生活に移行することで回避できるというもくろみからであった。安価なこともあり大ヒットしたが、心臓病の発症率がさらに上昇を続けたのは、マーガリンには動物性脂肪よりもはるかに有害なトランス脂肪酸が含まれていたからだ。しかし消費者がトランス脂肪酸の危険性を認識できるようになったのは21世紀になってからだった。

また、有機塩素系殺虫剤のDDTが禁止されるようになった発端は、レイチェル・カーソンが著書『沈黙の春』で殺虫剤の危険性を取り上げ、生態系や人体への悪影響を訴えたことだ。しかしDDTは虫を媒介とする発疹チフスやマラリアの予防に役立ち、5億人の命を救っていたと推定される。禁止以降、マラリアだけで5000万人が命を落とした。のちに発がん性など人体への悪影響はきわめて低いとする報告もあり、また鳥の生息数はDDT使用中も増加したと判明。なんのための禁止だったのかということになる。

本書は、こうした「過ち」がなぜ起きたかをていねいにリポートする。マーガリンは科学的根拠が不足していたし、DDT禁止は人々が広い視点で物事を見なかった結果だ。著者はさらに、電子タバコや遺伝子組換食品など現在進行形の問題にも言及し、判断の道筋を説く。科学の情報があふれるいま、読むべき一冊だ。



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