【Penが選んだ、今月の音楽】
日本のジャズ界にまたひとり、才能ある新人が登場した。彼の名は松丸契。幼少期から高校時代をパプアニューギニアで過ごし、そののちバークリー音楽大学に学んだ俊英である。新作の『Nothing Unspoken Under the Sun』はオープニングから突き抜けるようなサックス演奏がまず耳を捉える。
音色の豊かさ、確かなテクニック、変化に富んだ曲想で、全体のテンションを維持していく。カルテット編成のメンバーは、それぞれが磨かれたセンスの持ち主であり、その掛け合いは実にスリリングだ。この作品には今日的なジャズのエッセンスが凝縮されているとも思う。特に最終曲の「when we meet again」の抑制の効いたスローな演奏から感じる叙情は、彼の才能を物語っているといえるだろう。
「日本に帰国してからこの2年間、いろいろな人と演奏させてもらいましたが、同じ方向を向いていると感じる人とは演奏を続けています。彼らと繰り返し演奏することで、お互いの共通認識みたいなものが生まれてくる。それが広がると、ひとつの文化が生まれてくるのでしょうね。深く音楽に関わる中、それを表現する言葉も大切に考えていきたいです」
タイトルの英文は自身が発想した未完成のフレーズ。
「タイトルですが、たとえば“There is Nothing Unspoken”とすると、語られていないものはない、となりますが、“There is”がないので、そういった意味にはならない。“語られていないもの”としか言っていない。オープンエンドな言葉なんです」
オープンエンドとは無制限ということ。つまり無限大に解釈してほしい、音楽を自由に捉えてほしい、また自身がそうありたいという熱意の表れなのだろう。デビュー2年余りで2作をリリースとは驚きだ。今後どんな波紋を呼ぶだろうか。