年末年始は、いつもと違った家飲みを。注目のジントニック専門店店主が選ぶジン5選。

  • 写真:湯浅 亨
  • 文:岩崎香央理
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スタイリッシュなボトルもクラフトジンの魅力。ジンの液体は基本的に無色透明のため、パッケージデザインの発想が前に出て、お国柄や個性が際立つようになった。デザイン重視で集めるのも面白い。

近年の世界的なクラフトジン・ブームにより、身近なリカーショップでも、これまであまりお目にかかれなかった個性的なジンの銘柄がラインアップを賑わせている。喧騒を離れてゆっくりと家飲みを満喫したい年末年始には、世界各国のクラフトジンで旅行気分を味わってみてはいかがだろうか。

日本初のジントニック専門店「ザ・ワールド・ジン・アンド・トニック アントニック」のマネージャー宮武祥平さんに、手に入りやすく気軽に家でも楽しめる、こだわりのクラフトジンをセレクトしてもらった。

銀行員から転身してジンの世界にはまったという、マネージャーの宮武さん。ジン選びに迷ったら、味の好みやイメージを伝えて、お薦めのジンを提案してもらうのもいい。

ガラス張りで通りから中を見渡せる「アントニック」の明るい店内。カクテルを飲み慣れてない人や、バーは初めてという人にも入りやすいよう、カジュアルで親しみやすい雰囲気を大切にしている。

ジンの面白さを知るなら、まずは「ザ・ボタニスト 」から。

22種類のボタニカルを配合した繊細な味と香りを果汁で壊さないよう、店では自家製のドライフルーツを添えている。「ザ・ボタニスト」¥800(税込)/価格は左の一杯を店内で注文した場合

10月31日に中目黒にオープンした「アントニック」は、世界30カ国以上、約100種類ものジンを取り揃えた、日本初のジントニック・バー。オーダーのスタイルは、店のインスタグラムにアクセスして好きな銘柄を選ぶだけ。あるいは、北欧から南欧、南アフリカ、アジアやオセアニア、南米まで、世界地図を辿るような順序で壁にずらりと並んだ中から、デザインが気に入ったボトルを指差してもいい。もちろん味の好みを伝えて選んでもらうことも可能。どのジンを選んでも、1杯800円から高くても1200円というシンプルな価格設定が、バー初心者にも安心できる。

マネージャーの宮武さんが、クラフトジンに出合う最初の1杯としてお薦めするのは、ウィスキーで有名なスコットランド・アイラ島で造られた「ザ・ボタニスト」。ドライジンの王道を行きながらも、22種類の野生のハーブを手摘みして入れるこだわりが、ボタニスト=植物学者の名にふさわしい。「ジンの面白さを知るなら、まずはこれ。たくさんのボタニカルを使いながらも、どれかが色濃く出すぎたりはしていません。クラフトジン・ブームの先駆けともいえる存在ですが、昔ながらのジンらしさを継承していて、ジンを飲み続けてきた愛好家にとっても、ジンがさらに美味しくなったことを再発見できるブランドだと思います」

インスタ映え間違いなしの美しいジン「エンプレス 1908」。

原料にグレープフルーツが使われているので、ドライのピンクグレープフルーツを彩りに添えて。柑橘の香りと花の色が、祝い膳にも合う。「エンプレス 1908」¥1,000(税込)

無色透明が多いジンのなかでは珍しく、インディゴブルーの液体が特徴の「エンプレス 1908」。カナダ・ヴィクトリア州の由緒ある高級ホテル「ザ・フェアモント・エンプレス」とヴィクトリア蒸留所がコラボレーションし、同ホテルの名物アフタヌーンティーで出されるバタフライピーの紅茶をイメージして造られたジンである。「蒸留した後に天然のバタフライピーの花を漬け込んで着色しています。原液は青いけど、トニックウォーターを加えると、酸によってピンク色に変化していくのが美しい。自宅で飲む時も、トニックウォーターを注いでからの色のグラデーションを、時間とともに目で楽しんでみてください」

ジンなのにワインが入っている?! 変わり種の「フェルディナンズザール」。

ラベンダーや西洋カリンなど32種類のボタニカルを使用し、蒸留後に高級白ワインを添加。エレガントなボトルが目を引く。「フェルディナンズザール」¥1,200(税込)

クラフトジンの魅力は、原料などのルールが少なく、自由度が高いこと。一般的に、ジュニパーベリーを加えた蒸留酒をジンと称するが、原酒に用いられる材料は穀物から果実までバラエティに富み、漬け込むボタニカルの種類や数も自由自在。だからこそ、造り手のクリエイティビティや地域の特色が表れるのだ。

ドイツ・モーゼル地方のアバディス蒸留所で造られた「フェルディナンズザール」は、そんな個性を楽しめる銘柄のひとつ。3種の麦をベースにしたスピリッツに、なんとワインが添加されている。加えるのはもちろん、ドイツを代表する白ワイン「リースリング」だ。「小さな蒸留所で少量生産しており、面白いのは、毎年のワインの出来によって味の変化があること。ジンは熟成しない酒なので本来は均質ですが、これは年によって微妙に違います。ジンの中でも味わいが華やかなので、まずはぜひストレートで試してみてください」

日本でも数々のジンが登場。なかでも「香立」はいちばん人気。

ほのかに感じるひのきの香りが、熊野古道の森林浴をイメージさせる。「香立」¥800(税込)

個性豊かなクラフトジンが世界中で生まれた背景には、熟成が必要で商品化までに年月のかかるウィスキーの副産物として、寝かせる工程のないジンを小規模に造り始めたというきっかけがあるそうだ。いまでは、ウイスキー蒸留所やワイナリーなど、さまざまな酒造りの現場でクラフトジンを製造。日本でも、蒸留設備をもつ焼酎の酒蔵が、オリジナリティのあるジン造りにトライしている。

宮武さんがチョイスするのは、和歌山の梅酒メーカーが造ったブランド「香立(こだち)」。紀州杉と紀州ひのきをボタニカルに使用し、温州みかんと和歌山産の山椒も風味付けに加わる。口に含むと清々しい針葉樹の香りが立ち上り、柑橘とともにふわりと鼻に抜けていく。「日本のジンは現在50種類くらい販売されていますが、その中でも人気の銘柄。トニックウォーターとの相性もいいですよ」

東洋と西洋が混じり合ったような、スパイシーな香りの「ボビーズ」。

ジンの前身であるオランダの蒸留酒ジュネバの特徴的なボトルを、現代的なデザインにアレンジ。「ボビーズ」¥1,000(税込)

16世紀にオランダで飲まれていたジュネバという酒がイギリスに持ち込まれ、ジンと呼ばれるようになり、19世紀以降のロンドンで製法を確立したのが、現在の主流であるドライジンだ。そんな歴史に思いを馳せながら、新しい風を吹き込むオランダのクラフトジン「ボビーズ」を体験してみてほしい。「コリアンダーやクローブ、レモングラス、シナモンなど、東洋と西洋が混じり合ったスパイシーな香りが特徴。自宅で飲む場合、あればオレンジを添えてはいかがでしょう。実は、生産者は開発当初、オレンジを入れて蒸留させたかったそうなんです。しかし、思ったような香りが出せず、あえて材料から外してしまった。なので、造り手が本当は入れたかったオレンジをアクセントに足してあげると、面白いかもしれないですね」

造り手のアイデアから生まれるクラフトジンの世界は、素材も物語も十人十色。ハーブが強く香るものやフルーティなもの、スパイシーだったり少し甘みがあったりと、キャラクターも幅広い。家で美味しく飲むコツとしては、ジンとトニックウォーターの比率を1対3から1対5の範囲で割り、グラスとジンと割材のすべてを冷やしておくのがベストだそう。「温度が均一になると綺麗に混ざります。また、レモンやライムなどの添え物は本来は臭み消しなので、なくてもいい。入れる場合も、絞らずに輪切りにし、そっと差すようにしてください。その方が、ジンそのものの魅力を味わえますから」

クラフトジンで世界を巡り、ボタニカルの魔術に酔いしれる、今シーズンの冬はそんなステイホームを過ごすのも悪くないだろう。

ザ・ワールド・ジン・アンド・トニック アントニック
東京都目黒区東山1-9-13
TEL:なし
営業時間:13:00〜22:00
定休日:不定休 ※2020/12/31〜21/1/4は休業
www.instagram.com/antonic.gin