歴代アメリカ大統領における意外な「ベストドレッサー賞」は誰か? 【ファッションで読み解くアメリカ大統領Vol.2】

  • 文:小暮昌弘
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若々しさがみなぎるジョン・フィッツジェラルド・ケネディ 1917年5月29日生まれ。マサチューセッツ州出身。ハーバード大学卒業後、海軍に志願。太平洋戦争では魚雷艇の艦長として活躍した。60年の大統領選挙では民主党から立候補。翌年、史上最年少、43歳の若さで第35代アメリカ大統領に就任、初のアイルランド系ローマ・カトリック教徒の大統領だ。しかし63年11月22日、白昼大衆の面前で暗殺される。まだ46歳という若さだった。©ZUMA Press/amanaimages

歴代のアメリカ大統領の中で、第45代アメリカ大統領のトランプをワーストドレッサーと評する人は多い。前回書いたように彼が着ている服がうんぬんという話ではなく、その着こなしがあまりにラフすぎて、ふるまいも紳士的でないからだ。では逆にベストドレッサーとして誰が挙げられるだろうか。

多くの人たちが想像するのは第35代のジョン・F・ケネディに違いない。ハーバード大学出身。選挙で選ばれた大統領としては史上最年少、43歳という若さで大統領に就任したまさにレジェンド。1960年の選挙では共和党のリチャード・ニクソンと戦い、選挙前はニクソンが優位に立っていたが、ふたりのテレビの討論会では、ハンサムでテレビ映りを意識してメイクまで施したケネディがニクソンを圧倒。大差でニクソンに勝利して大統領になった。政治家たちの着こなしにも詳しいファッション評論家の落合正勝氏は「歴代大統領の中で、最も洒落者だったのはジョン・F・ケネディで、彼は公式の場ではアメリカ人が大好きなボタンダウンのワイシャツを頑として受け入れず、ピンストライプのスーツを愛用し、イギリス流を貫いた」(『復職評論家が見てきた洒落者たちの風景』はまの出版)と書く。

ケネディはアイビー・リーグ出身でプライベートではボタンダウンシャツを愛用していたが、公式な場所では絶対にそのシャツを着なかった。スーツもWASP(ホワイト、アングロ-サクソン、プロテスタントの頭文字をとった略語)に代表されるアメリカのエリート階級のユニフォームといえる3ボタン段返りのトラディショナルモデルではなく、2ボタンモデルの洗練されたスーツを愛用した。しかも意図的にそうしたかどうかはわからないが、ボタンをふたつともかけて着用することが多かった。ケネディはそれまでのアメリカの古い政治体質の改革を、その着こなしで表現したのではないだろうか。

ケネディ以降に登場した大統領では、ビル・クリントン(第42代)やバラク・オバマ(第44代)が比較的お洒落に見えるが、それもある意味、ケネディの若々しいイメージを踏襲、あるいは模倣しているようにも思える。大統領たちの着こなしを俯瞰的に見れば、共和党出身の大統領はアメリカントラッドを基本にした着こなしが中心で、民主党出身の大統領はアメリカントラッドを基本にしながらも、モダンな要素をうまく取り入れているということが言えよう。

そんな時、アメリカの「closet factory」というウェブサイトで「米国史上、最もファッショナブルな大統領トップ10」という記事を見付けた。驚くことに、その記事では予想に反してケネディは2位だった。

「外見、ヘアスタイル、笑顔、ファッションセンス、すべてをもち合わせていたのがジョン・F・ケネディ。就任式でシルクハットを被らなかった最初の大統領」と書かれているが、それでも2位なのだ。では1位は誰か?

写真中央がダブルブレストのスーツを着用するハリー・トルーマン。1884年5月8日生まれ。ミズーリ州西部の農家出身で、最終学歴は高校卒。大学卒業以上の学歴をもたない最後の大統領と言われる。郡判事を務めた後、民主党の上院議員となり、フランクリン・D・ルーズベルト大統領が4選を果たしたときには副大統領に就任する。その後、ルーズベルト大統領の急死で、45年に第33代アメリカ大統領に就任した。©The Granger Collection/amanaimages

自分のショップまでもっていた、洒落者トルーマン


輝ける1位は第33代のハリー・トルーマンだ。1945年のフランクリン・D・ルーズベルト大統領の急死で急遽、副大統領から大統領に昇格。日本では広島、長崎への原爆投下の命令を下して第二次世界大戦を終わらせた人物として知られている。その人物が実はとてもお洒落な大統領だったというのである。トルーマンはファッションに精通していて、出身大学のあったカンザスシティにメンズショップをもったこともあると書かれている。ホワイトハウスには彼の服を仕立てるためにプライベートで雇った職人もいたらしいし、愛用したのはダブルブレストのスーツ。革靴が大好きで、96足の靴を揃えていて、特にオックスフォード(短靴)スタイルの革靴が好みだったらしい。靴のコレクションではスリッパも41足も持っていたと書かれている。相当の洒落者に違いない。一般の人が抱くトルーマンのイメージとは異なる。これには驚いた。

ちなみにケネディに次いで3位に入ったのは、第21代のチェスター・アーサー。その記事によれば、シルクハット、フロックコート、シルクスカーフをいつも身に着け、「アメリカ史上最もファッショナブルな大統領のひとり」と書かれている。1日に何度も服を着替えるほどの、いわば伊達男で、新聞では「エレガントなアーサー」「紳士のボス」と揶揄され、夕食にはわざわざタキシードに着替えて臨んだと書かれている。トルーマンではないが、「80本のパンツに合う80足の靴を所有していた」とも書かれている。

アーサー以降のランキングも書いておこう。


4位 第32代   フランクリン・D・ルーズベルト

5位 第3代  トーマス・ジェファーソン

6位 第26代   セオドア・ルーズベルト

7位 第9代   ウィリアム・ハリソン

8位 第40代    ロナルド・レーガン

9位 第34代 ドワイト・アイゼンハワー

10位   第16代   エイブラハム・リンカーン


リンカーン、ふたりのルーズベルト、ジェファーソンなど教科書でよく目にする大統領もいるが、出身や経歴などをあまり知らない大統領の名前も挙げられている。8位にランキングされたロナルド・レーガンは元ハリウッドスターだ。長身だし、スーツなどが似合っていた記憶がある。第39代のジミー・カーター、第42代のビル・クリントンもそれなりにスーツスタイルは似合っていたが、名前は挙がっていない。前回書いた第44代、バラク・オバマはトランプ大統領に比べたら、数倍お洒落だったと断言できる。

もちろん、このサイトのランキングがどういったデータをもとにしたものであるかは書かれていないが、これまでファッション史の俎上にものらなかった大統領がランキングされているところが実に面白い。それだけ長い間、歴代の大統領たちの一挙手一投足がメディアを含めて多くの人から注目されてきた証拠だろう。

私だけかもしれないが、アメリカはまだまだ知らないことがたくさんある。

ゴージャスなコートにフロックコートを着こなすチェスター・アーサー。1829年10月5日、バーモント州で生まれる。ニューヨークのユニオン大学を卒業後、独学で法律を学び、弁護士に。同時に共和党に入党、議員経験のないまま、第20代ジェームズ・ガーフィールド大統領のもとで副大統領に就任。ガーフィールドの暗殺に伴い、第21代アメリカ大統領に昇格した。大統領になる前は利権にまみれた人物との評判だが、就任後はクリーン派に変身を遂げ、立派に職責を務めた。アーサー政権は最高の共和党政権であったという歴史家もいる。©Science Source/amanaimages