【Penが選んだ、今月の音楽】
コロナにより、アーティストたちが音楽発信の仕方を模索することとなった2020年。約10年前の一大ブームも記憶に新しい、NYブルックリン・シーンの中心的存在であるダーティー・プロジェクターズは、作品ごとに異なるバンド・メンバーがリード・ボーカルを担当した、計5枚のEPをリリースするプロジェクトを敢行した。約2年ぶりに届けられるニュー・アルバム『5EPs』は、それら5枚すべてをまとめた一作だ。
幕開けは、『Windows Open』。ミニマルなアコースティック演奏と、ハートウォーミングな歌声で紡がれる優美なメロディが寄り添い、文字通り開け放たれた窓からそよぐ風のように心地よく響く4曲が収められている。
次の『Flight Tower』には、洗練を極めたエレクトロ・ソウルが4曲。2020年代型バンドとして、またボーカル・グループとしての真価が存分に発揮されている。
聴くほどに心の襞に染み入っていくような、たおやかな楽曲群に癒やされるのが、昨年他界したボサノバの巨星、ジョアン・ジルベルトに捧げられた中盤の『Super João』だ。ここでの4曲はすべて、テープ録音によるもの。
続く『Earth Crisis』の4曲では、一転してデジタル録音によるカットアップが駆使され、オーケストラ演奏と歌唱を解体/再構築した、エクスペリメンタルな音世界が広がる。
そして、締め括りが『Ring Road』の4曲。複雑で重層的でありつつ、ぴったりタイトな演奏とボーカル・ハーモニーで、進化を重ねてきたバンドの現在地を示す役割を果たしている。
バンドの多面的な魅力を見事に伝える『5EPs』。その中で、あくまで音と声がオーガニックな感触に貫かれているところに、中心人物デイヴ・ロングストレスの信念とも声明とも呼べる気骨を見た気がした。