エルメスのロングセラー「アルソー」の新作は、濃紺の宵闇に月と星がまたたくフルカレンダーが魅力。

  • 文:笠木恵司

Share:

1978年に誕生したエルメスのロングセラー「アルソー」の最新作。馬具の鐙(あぶみ)から着想を得た天地非対称のワイヤー型ラグと、斜体のアラビア数字インデックスが印象的。Photo by © Joël Von Allmen

太陽が沈んで宵闇が訪れる直前に、大空が美しい濃紺に染められることがある。エルメスの新作「アルソー グランド・リュンヌ」のダイヤルカラーは、その貴重な瞬間の色を再現したといっても過言ではないだろう。深く落ち着いた艶を放つサンバースト仕上げのブルーは、とてもロマンチックな印象を与える。さらに6時位置にはムーンフェイズを搭載。星々を従えた月が顔を出しては隠れていくことで、満ち欠け(月齢)を表現する。夜空ではなく腕もとを見ながら「今夜は満月だね」と呟くことができるのは、この機構を備えた時計を持つ人だけの特権だ。

関連記事:一生ものの革ストラップで味わう、エルメスの腕時計ふたつの愉悦。

ムーンフェイズのサブダイヤル外周には、ポインター式の日付表示。12時位置の2つの小窓は曜日と月。つまりはフルカレンダーであることも、濃紺のダイヤルカラーに目を奪われて、すぐには気づかないかもしれない。この新作の主役は、「グランド・リュンヌ(大きな月)」というモデル名から分かるようにムーンフェイズだが、4種類のカレンダー表示がそれぞれ視認性を確保しながらも、考え抜かれた最良のバランスで配置されている。

「アルソー」は1978年にアンリ・ドリニーがデザイン。馬具の鞍に付属する鐙(あぶみ)から着想を得た天地非対称のワイヤーラグを持つ丸形ケースと、ギャロップする馬をイメージさせる流麗な斜体のアラビア数字インデックスがアイコンとなっている。エルメスではコレクションごとに固有のタイポグラフィ(書体)をデザインしてきたが、まさにたてがみをなびかせて疾駆するサラブレッドを想わせる細身が魅力だ。ポインター式日付表示の数字も同じタイポグラフィが使われている。

このタイポグラフィと独創的なラウンドケースを「動」とすれば、ダイヤルに整然とレイアウトされたカレンダー表示は「静」となる。対立する2つの要素を美的に調和させるだけでなく、太陽暦(=昼)と、ムーンフェイズによる太陰暦(=夜)が共存。この両者を結ぶ宵闇の濃紺がダイヤルカラーになっているとも解釈できる。

そんな理屈はさておき、ステンレス・スチールのメタリックなシルバーと濃紺の相性は抜群。ブルー・アビスのアリゲーターストラップもよく似合う。着ける人の年齢を問わず、清新な若さと行動力、そしてウィットに富んだ知性を感じさせる新作といえるだろう。

ダイヤルカラーに合わせて、アリゲーターストラップも濃紺(ブルー・アビス)に仕上げた。自動巻き、ステンレス・スチール、ケース径43㎜。エルメス「アルソー グランド・リュンヌ」¥749,100(税込予価) Photo by © Calitho

問い合わせ先/エルメスジャポン TEL:03-3569-3300