電子音楽の最高峰にして、現代の音楽シーンで最も重要なプロデューサーのひとりに数えられるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)ことダニエル・ロパティン。最近もザ・ウィークエンドやモーゼス・サムニーの最新作でサウンド・デザインを決定づける重要な働きを見せつけるなど、その存在感は絶大である。
近年はサフディ兄弟監督映画のサウンドトラックを立て続けに発表し、2018年にはマルチメディア・コンサートを成功させるなど、型にとらわれない活動を謳歌。そんな型破りな奇才には、外部との接点が限られるパンデミック禍の悪条件を逆手に取るのも朝飯前なのだろう。新作『マジック・ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー』では、自宅にいながら音楽に親しんだ自らのラジオ体験に着想を得て、架空のラジオ局という異形のコンセプト・アルバムを完成させた。
作品ごとに自由で刺激的なビジョンとサウンドを提示してきたOPNにとって、ジングルをインタールードに置き換え、異なるタイプの曲をつなげても違和感のないラジオ放送を模したアルバム構成は、思いのほか相性がよかったようだ。これまでの音楽履歴を行き来してコピペするようにコラージュした楽曲群は、まさにOPN音楽の集大成。抽象的なシンセ・サウンドとランダムなビートが鳴るエクスペリメンタル・ポップにキラキラした音像のアンビエント。ドラムビートが強調された疾走感のあるポップ・チューンから21世紀の電子バロック音楽とも呼ぶべき映画音楽のような交響曲まで、ザ・ウィークエンドやアルカの客演を交えながら、過去の作品を統合するように不穏で美しいエレクトロニック・ミュージックを鳴り響かせている。
この静謐な旋律と強烈なノイズの混在作がディストピアのラジオから流れる風景が目に浮かぶ。