フィンランドの名作プロダクトといえば、アルテック「スツール 60」がまず思い浮かぶ。そのスツールの原点の思想にある、多様な使い方を提案する展示がいま、Instagramで話題になっている。
展示を行っているのは建築家、DDAA/DDAA LAB代表の元木大輔。ひっくり返してスタッキングできる『Tri Stacking Stool』シリーズ、テンセグリティ構造によって天板を支えているテーブル『Strange Tensegrity Table』シリーズなど、これまでプロダクトデザインも手がけてきた元木。アルヴァ・アアルトが1933年にデザインしたアルテックの名作『スツール 60』と、そのジェネリック品を改変する100パターンのアイデアを、『Hackability of The Stool』として6月23日からInstagramで1日1作品ずつ発表している。
このプロジェクトは元々、投資やスタートアップの支援をしている企業から「イベントで大勢が座れる椅子が欲しい」と依頼されて始まったもの。当初は「コーヒーが置ける」「片付ける時に便利」「後ろの方の人が見やすい」といった機能を、必要な分だけ着脱できるシステムを10種類ほど考えていた、と語る元木。そこからなぜ100パターンを制作するまでに至ったのだろうか?
アアルトの思想を広げていった、シンプルなスツール
「スツール 60は、アアルトの『いいものを安く作りみんなが使えるようにする』というモダニズム的な思想がストレートに反映され、とてもシンプルかつ合理的にできている歴史的な名作です。けれども多様性に重きが置かれるようになった現代では、そのような均質なデザインだけが必ずしも暮らしにフィットするとは限らないと思ったんです」
元木はアアルトの考えを尊重しながらも「スツール 60」を下敷きに機能をひとつ加えることで、多様な個性をもつスツールをつくることにしたのだ。
今回のプロジェクトのために行ったリサーチから、元木は「スツール 60」の特徴をこう語る。「アアルトは、L-レッグという特許技術を開発したんですが、合板ではなく無垢のバーチ材に切れ目を入れて曲げて、そこに薄くスライスした木を入れて固定しているんです。こうすることで、長年の使用に耐えうる強度と、さまざまな面に接着できる利便性を持ち合わせています」
元木は、「スツール 60」のジェネリック品も自分たちの足で収集している。IKEAやニトリをはじめ、国内でこれまでに見つけたのは8種類ほど。展示でもあえてそういったジェネリック品にも取り付けられるパーツをデザインしている。
アイデアはPCを使う、コーヒーを飲むなど機能から考えたり、形から考えたりと項目を立て、現在350種類以上のバリエーションがあるそうだ。
このプロジェクトを通して、元木はアアルトがこのスツールに込めた考えを再確認したという。
「そもそもスタッキングスツールは、スタッキングが必要な空間で使われるもの。そういった空間は、何にでも使える場所、要するに機能が定まっていないことが多いんです。PCテーブルが付いたスツールも、机としては不十分だけど、イベントスペースにあると便利なものになる。デザインをしていくうちに、用途が固定されていない多義的なものはとても”豊かさ”を生むことに気づきました。そして同じことをアアルトも考えていたのではと思います」
「スツール 60」本来の形を残しながら多彩に展開していくアイデアは、アアルトがデザインした1933年に比べて私たちの生活がどれだけ多様になったかを示唆しているようにも思える。引き続きInstagramで作品をチェックしていきたい。
Daisuke Motogi / DDAA LAB『Hackability of The Stool』
開催期間:開催中〜10月2日まで
開催場所:Instagram
www.instagram.com/daisukemotogi/?hl=ja