江戸時代以前の伝統的な絵画や陶芸、刀剣は、いまも人々の心を惹きつけるとともに、第一線で活躍するクリエイターに多くのインスピレーションを与えてきた。そうした日本美術や古美術品とクリエイターらがコラボレーションを果たした夢のような展覧会が、国立新美術館で開催中の『古典×現代2020―時空を超える日本のアート』だ。
本展の魅力は、美術に限らず幅広いジャンルで活躍するクリエイターが参加していること。パリを拠点にする建築家の田根剛は、滋賀・西明寺の『日光菩薩立像』と『月光菩薩立像』(ともに鎌倉時代)に「光と祈り」をテーマとしたインスタレーションを展開。暗闇から光を受けて浮かび上がる仏像は、息を飲むほどに厳かだ。「ミナ ペルホネン」を主宰するデザイナーの皆川明は、尾形乾山に着想を得て、自然の模様を用いたテキスタイルと焼きものが響き合う空間を築き上げた。漫画家で美術家としても活躍するしりあがり寿は、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』を現代風にパロディ化。遊び心に満ちた愉快な情景にニヤリとさせられる。このほか、円空と同じ一木造で木彫を制作する棚田康司や、刀剣の名品に大作で挑んだ鴻池朋子など美術家の展示もあり、8名の錚々たるクリエイターが、日本美術史上の巨匠と時代を超えて共演している。
一見、クリエイターの表現ばかりに目が向いてしまうが、伊藤若冲の花鳥画や曾我蕭白の屏風をはじめとした古美術品の質の高さも見過ごせない。それもそのはず、日本美術の監修を、1889年に創刊され、日本・東洋美術の研究者が集う世界最古の美術雑誌『國華』の主幹が担当しているのだ。そもそも国立新美術館で古美術品が企画展示されることも初めてであるから、いままでになかった展覧会と言うほかない。
皆川明は「いつの時代も伝統と革新は寄り添いながら、互いの光を融和させ、新たな道筋を照らしている」と語っている。どのクリエイターも伝統に敬意を払いつつ、創意工夫を凝らして新たな作品を生み出していることは明らかだ。日本の古典と現代のエキサイティングな出合いを、いますぐに会場で目の当たりにしてほしい。
『古典×現代2020―時空を超える日本のアート』
開催期間:2020年6月24日(水)~8月24日(月)
開催場所:国立新美術館 企画展示室2E
東京都港区六本木7-22-2
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:火
入場料:一般¥1,700(税込)
*オンラインでの事前予約制。マスク着用を要請し、入館前の検温、手指消毒液を設置するなど、新型コロナ感染拡大防止のための対策を実施