金正恩が南北首脳会談でふるまった、北朝鮮の郷土料理「平壌冷麺」とは?

  • 写真:Lee Jong-Yeon
  • 文:本間裕美
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冷たいスープ仕立てやタレに混ぜて食べるものなど冷麺にも種類はさまざまあるが、ルーツは素材の味を活かした素朴な平壌冷麺にある。その歴史や特徴を紹介しよう。

今回紹介する店、トンムパプサンのスープは韓国の他店の冷麺のようにキンキンに冷やされてはいない。すする時に噛みしめる荏胡麻の実が独特な風味を醸す。11,000ウォン

朝鮮半島を代表する食のひとつ、「冷麺(ネンミョン)」。そのルーツは北朝鮮から始まった。朝鮮半島の北部地帯では小麦や米よりも蕎麦を多く栽培し、実を麺にして食してきたが、固まりにくく切れやすい麺の形を維持するために冷たいスープに入れて食べるようになった。こうして、朝鮮半島の南部で食べられていた、日本のうどんのように小麦粉をこねてつくるククス類とはまったく違う冷麺が生み出されたのだ。蕎麦は晩秋から冬にかけて栽培されるため、高麗(コリョ)時代から平壌地域では冬の郷土料理として伝わった。

平壌にある大同江(テドンガン)の沿岸は、昔から平壌冷麺の中心と言われ、18世紀後半には「冷麺家」と呼ばれる場所が存在していた。2018年の南北首脳会談で金正恩が韓国側にふるまった平壌冷麺を供した平壌のレストラン「玉流館(オンニュグァン)」も大同江の沿岸に位置し、一日に約5千人が訪れるという。玉流館で若き日に修行した経験を活かし、韓国で20年もの間、平壌冷麺の味を伝え続けている「トンムパプサン」の店主ユン・ジョンチョルは、玉流館で学んだ基本の味を守りながら、数々の北朝鮮料理を提供。本格的な平壌冷麺の調理手順を見せてもらった。スープはほどよく冷たく、麺は噛みしめるほどに味わいを感じる。シンプルであるが滋味深く、玉流館ではおかわりする人が多いというのも納得だ。

本来、北朝鮮ではスープの基本材料として牛肉、豚肉などの他にキジ肉を用いるため、スープにキジ肉の特有の香りが感じられるそうだ。トンムパプサンのスープは牛肉、豚肉、鶏肉に玉ねぎとネギだけを加えて2時間30分ほど煮込んだスープが自慢。透明感があり、薄味でさっぱりとしながらも牛肉の旨味がしっかりと感じられる。

「トンムパプサン」の店主に教わる、平壌冷麺の調理手順

1.麺は蕎麦粉が多すぎると固まりにくいため、澱粉、小麦粉を少量混ぜて練り上げる。のど越しもよく弾力のある麺になる。

2.つるつるとした触感が麺の命。ゆで方にも細かな気配りが必要。箸やざるで麺を泳がせながら適度な硬さに調節していく。

3.手の感覚で麺の硬さを確認しながら素早く洗い、一人前の大きさに麺を丸くまとめて器に盛りつけ、形を整えていく。

4.荏胡麻(えごま)の実を入れた器に麺を入れ、大根漬け、キュウリ、梨、ゆでた牛肉、ゆで卵などをのせスープを注ぐ。

ユン・ジョンチョルさんは「冷麺は私の生きがいです」と語る。夫婦で店を営み、現在は弟子が、彼の技と味を受け継ぐために特訓中だ。

トンムパプサン
10 Yanghwajin-gil,Mapo-gu, 04070 Seoul
TEL:02-322-6632
営業時間:11時30分~15時、17時30分~21時(火~土)11時30分~15時(日)
定休日:月

こちらの記事は、2020年 Pen 2/15号「平壌、ソウル」特集からの抜粋です。