「一冊、一室。」をコンセプトに銀座で一冊の本を売る森岡書店が、開店5周年を迎える2020年5月に、写真集『GINZA TOKYO 1964』を刊行した。
本書は、伊藤昊(いとう・こう)という無名の写真家の作品集だ。1960〜80年代にかけて銀座や横浜を多く撮影し、写真展も開催した経歴をもつ伊藤だが、晩年は陶芸家として活動したため、彼の写真が話題に上がる機会はこれまでになかった。森岡書店の店主、森岡督行さんが伊藤昊を知ったのは、2019年の夏。伊藤の仕事場に残された段ボール箱に収められていた1964年前後の銀座を写したプリント写真に森岡さんは関心をもち、これをテーマにした写真集の制作に至ったのだ。
1964年は東京オリンピックが開催された年で、銀座の街も経済成長の活気に満ちていた。アントニン・レーモンドによって改装された松坂屋やコカコーラの看板など欧米文化の影響も色濃く、伊藤の写真からはそれらに対する憧憬も感じられる。一方で、華やかな発展の裏側にある陰の風景も同時に写されており、葛藤やその中から見出す希望といったものも、作品から見て取れるだろう。
今回の銀座の写真だけでなく、横浜や未整理のカラー写真などもまだまだあり、「東京版ソール・ライターのような展開もできるかもしれない」と森岡さんは言う。写真家・伊藤昊が捉えた街の姿を、この一冊から知ってほしい。
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