新型コロナウイルスと戦う! ファッション企業が続々と支援に乗り出した。Vol.2

  • 構成・文:高橋一史

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ケリング・グループがコーポレートサイトで公開している医療従事者への応援イラスト。幸せな気分にさせてくれる、心温まる絵だ。

人々の憧れを提案するファッション企業がいま、日々の暮らしを取り戻そうと新型コロナウィルスへの脅威に果敢に立ち向かっている。医療機関の支援をはじめ、防護服やマスクの製造といった工場インフラの活用は、この業界ならではだ。こうしたファッション企業の支援活動を紹介するこの連載記事のVol.2では、世界有数のラグジュアリー企業4社の功績に目を向ける。

※ 掲載内容は各社の支援活動の一部であり、すべてではありません。


多角的に支援を続ける、ケリング・グループ

グッチ、サンローラン、バレンシアガといったブランドを擁する、フランスに本社をもつグローバル・ラグジュアリー・グループ「ケリング」。中国が深刻な危機に陥った1月には、中国湖北省赤十字に750万人民元(約100万ユーロ=約1.1億円)を寄付。3月のイタリア危機ではグループ内のブランドとともに同国内の主要病院に200万ユーロ(約2.2億円)を寄付した。
同月にグッチは独自に、イタリア・トスカーナ州の要請に応じて医療向けサージカルマスクとガウンの製造をスタート。合計110万枚のマスクと5万5000着のガウンが生産される見込みだ。グッチはさらに各機関への寄付も行い、ブランドのSNSアカウントを活かしてWHOからの情報拡散にも協力している。

ケリングはイタリアにおいて女性のサポートも行っている。外出禁止で顕在化した家庭内暴力への対策だ。傘下のイタリアブランド、ポメラートとドドが被害者のための啓蒙キャンペーンと募金活動を始めた。

またケリングはフランスで医療機関にサージカルマスク300万枚を配布。ウィルス研究を進めるパスツール研究所をはじめ、各病院にも研究や医療器具調達のための資金を提供している。さらに同国のバレンシアガ、サンローランは、週に1万5000枚のサージカルマスクを製造してパリの医療スタッフに配布中だ。アメリカでも4月にケリングは傘下のブランドとともに、CDC(米疾病対策センター)財団への100万ドル(約1億円)の寄付を発表した。

同グループが日本語対応のコーポレートサイトで展開している、イラストのダウンロード&シェアサービスにもぜひご注目を。医療従事者を応援する気持ち、人々のつながり、現在をポジティブに過ごす日常が、イラストレーターのSoledad Braviの絵で表現されている。ハッシュタグ「#KeringForYou」をつけて、シェアしてはいかがだろうか。(コーポレートサイトはこちらから

ボランティアの職人が、ガウンとマスクを製造するルイ・ヴィトン

フランス政府の要請を受けてマスクを製造するルイ・ヴィトンの工場。ⒸDavid Gallard

本社のあるパリのアトリエでは、ボランティアの職人が医療用ガウンを製造。ⒸPiotr Stoklosa

スタッフの技能を活かした社会貢献を行うのがルイ・ヴィトンだ。フランス政府の要請を受けて、2020年4月8日にフランス国内の5カ所の工場を医療用防護マスク製造に転用した。約300人の職人がボランティアで作業にあたる予定だ。さらに4月10日には、パリ市内のアトリエで20名のボランティア職人が数千枚規模の医療用ガウンの製造を開始。市内の6つの病院に順次届けられている。この作業は現在、在宅勤務のスタッフも共同で行うようになった。CEOのマイケル・バークは、「私たちにできる方法で医療従事者を支えられることを誇りに思います。この市民活動に自らの意思で参加してくれたアトリエ職人の皆さんに感謝します」と語っている。


ゼニア グループも、イタリアとスイスの自社工場で医療用防護服を。

イタリア、スイスの自社工場で製造される医療用防護服。

世界最高峰の高級生地メーカーであり、メンズウエアのブランドでも名高い「ゼニア グループ」。彼らも医療用防護服の製造に乗り出している。イタリアとスイスの工場の一部を利用し、約28万着を目標にすることが4月14日に発表された。同グループのみならず、フォンダツィオーネ ゼニア、イタリア・ピエモンテ州、スイス・ティチーノ州の協力により実現されたものだ。「お互いに気を配りましょう。一緒にこれを終わらせましょう」と、エルメネジルド ゼニアCEOのジルド・ゼニアは呼びかけている。なお同グループはイタリアの市民保護への合計300万ユーロ(約3.5億円)の個人寄付も表明している。


従業員の給与を守り、多額の寄付も行うエルメス・グループ

エルメス・グループの中核ブランド、エルメスのパリにあるフォーブル・サントノーレ店。ⒸBenoît Teillet

フランスの「エルメス・グループ」は3月30日に、「各国政府の支援に頼ることなく世界各地の従業員約1万5500人の基本給与を維持する」と発表。ファッショングループが従業員の生活を守ることを表明した、意義ある声明だ。さらにグループの基盤であるエルメスは、パリ近郊の公立病院に2,000万ユーロ(約23億円)もの巨額な寄付を表明。ほかにも香水の生産拠点で30トン以上の手指消毒剤を生産し、グループとして3万1000枚以上のマスクを寄付するなど活動は幅広い。


有事のときほど企業の理念が問われ、組織トップの素早い決断も必要だ。政府や医療機関とのスムーズな連携も必須である。いま各国でファッションの店舗は営業休止に追い込まれ、消費マインドも減少して売上は大打撃を受けている。その厳しい状況下でも奮闘して社会貢献するファッション企業の姿を、この不定期連載は引き続き追っていきたい。