【 コロナと闘う! アメリカのアート界最新事情 #01】 居場所と食事を失ったデトロイトの子どもたちを、アートの力で救え!

  • 文:稲石千奈美

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アートブックの塗り絵に夢中になる子どもの様子。photographed by Zach Elwart

新型コロナウイルス感染者が50万人を超え、ほとんどの州で事実上のロックダウンが続くアメリカ。閉鎖を要請された美術館やアートギャラリー、自宅から出ることのできないアーティストたちは、芸術の威力を発揮してコロナ情勢下でも愉しめるアートを発信中だ。この連載シリーズでは、新型コロナウイルスと闘うアメリカのアート界の取り組みを定期的にお伝えしていく。

まずはニューヨークに続いて、感染者や死者が急増し、現在のコロナホットスポットになっているデトロイトから。2013年の都市破産申請、蔓延する貧困や犯罪と闘い続け、近年は復興が注目される、シャイノラやジャック・ホワイトの設立したレーベル「サードマンレコーズ」の拠点としても知られるようになった街だ。

3月中旬、再生の過渡期にあるデトロイトでもコロナ対策ですべての公立校が休校となり、同時に多くの子どもたちが安定した食事と居場所を失った。貧困家庭の子どもたちにとって、学校は朝食と昼食の配給が受けられ、困難な家庭事情やホームレス事情から一時的に解放される、安心できる居場所になっていたからだ。

立ち上がった、地元のギャラリーと29人のアーティスト

この事態を早期から予測していたのが、ローカルコミュニティと深いつながりをもつアートギャラリー「Library Street Collective」。子どもたちに食事とアートを提供するプロジェクトを発起し、29人のアーティストの賛同を得た。実現したプロジェクト「WE ALL RISE」は、2500冊のアートブックを食事とともにデトロイトの公立校の生徒たちに配布している。

塗り絵としても楽しめるアートブックは、デトロイト市教育委員会のモットー「WE ALL RISE(みんな一緒に立ち上がろう)」を表紙にあしらい、年齢を問わず楽しめるドローイング29点を掲載し、色鉛筆がセットされている。

食事は地元で人気のカクテルバー「Standby」が担当し、プロの料理人による手づくりメニューを日替わりで提供。配給には、学生に無料でボクシングとフィットネス教育を提供するボクシングジム「Downtown Boxing Gym」と食のチャリティ団体「Forgotten Harvest」も加わって、普段はボクシングジムへ子どもたちを送迎しているワゴン車が食事の配送に使用された。

学校教育から芸術予算が削減されている現状下で、この「WE ALL RISE」はアートと地元のコミュニティが子どもたちに文字通り、そして同時に違う意味での「栄養」を与えられることを証明した。アートブックは電子書籍のかたちでも提供されているので、世界中どこからでもダウンロードができ、売上はすべてデトロイトのアート教育団体に寄付される。

「WE ALL RISE」アートブックの表紙。参加アーティストはKAWS、ニック・ケイブ、シェパード・フェアリー、ヴァージル・アブローなどを含む29名。

KAWS(左)とエディ・マルティネス(右)のページ。バラク・オバマの大統領選時のキャンペーンポスター作製でも有名なシェパード・フェアリーは、「アートブックが子どもたちのストレスを緩和してくれるといい」と語る。

「Standby」で用意された料理。全国的に注目される人気バーが、給食のキッチンとなった。子どもたちの無事を願って調理される料理は、日替わりメニュー。Photo: Standby Detroit