ITジャーナリスト林信行は、新iPad ProにAppleの“先取の精神”を見た。

  • 談:林 信行
  • 構成:高野智宏
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2020年に発売10周年を迎え、10年連続でタブレット部門での売り上げも顧客満足度も1位をキープしているiPad。そのフラッグシップモデルのiPad Proが、最新技術を満載して大幅リニューアルを遂げた。ぱっと見ただけではわからない進化を果たしている。写真は11インチモデル。11インチ Wi-Fiモデル¥93,280~、12.9インチWi-Fiモデル¥115,280~(ともに税込)

iPad Proの新機能「LiDAR」で、なにができるのか?

去る2020年3月18日、Appleが新製品を発表した。発表されたのは、MacBook AirとMac mini、そしてiPad Proの3製品。なかでも注目を集めているのが、第4世代となるiPad Proだ。

新型iPad Proにおける最大のトピックといえば、発表前には噂にもなっておらず、誰もが予想していなかった新機能「LiDAR(ライダー)スキャナー」が搭載されたことだろう。これは、新たに搭載された専用レンズからレーザーを照射し、その反射光により対象物との距離を計測する技術で、衝突回避などクルマの自動運転にも活用される技術を転用したものだ。iPad Proが搭載するLiDARでは、周囲5mの周辺環境を3Dデータで習得できるという。

第4世代となるiPad Proのカメラ部には、超広角を含むふたつのカメラレンズに加え、LiDARスキャナーを搭載。注目の空間センサー技術で、5m圏内の対象物までの距離を正確に認識する。屋内外どちらでも使える点も優秀。

この技術を使って、なにができるのか。Appleは公式サイトで「AR(拡張現実)アプリがもっとリアルになる」と謳っているが、これまでもiPhoneやiPadでARを楽しむことはできた。しかし、これまでのARが認識するのは対象物の画像データであり、異なる角度から撮影した画像を解析しAR化したもので、その精度や正確性には限界があった。

その点、LiDAR搭載のiPadであれば、「測量」アプリを使って部屋やその中のインテリアプロダクトなどの長さを測る際、これまでよりも測量結果が正確なのはもちろん、いままで培ってきた画像認識の知見も活かし、ちゃんと角や辺を認識して選びやすくしてくれる。ARで部屋に充満した煙や水の映像を映し出す場合も、ちゃんと部屋の端がどこまでかを認識し、その境界線を正確に表示できる。さらにこの測量機能は屋内に限らず、屋外でも運用できる。

模様替えやARという例を出したので、それが最大のトピックかと思われるかもしれない。確かにLiDARは、現時点では一般に向けた機能とは言い難いのも事実だ。しかし、そうした実験的ともいえる機能を、いち早く搭載するのもAppleという企業の特徴といえる。

Appleの技術開発における、ふたつの方向性。

Appleの技術開発にはふたつの方向性があって、ひとつはテクノロジーがもたらす便利さや豊かさを、誰もが使用できる形に製品化し提供する方向。もうひとつが、将来的に必ず大勢の人に恩恵を与えるであろう技術を、先んじて製品に搭載するということだ。

後者の代表的な例といえば、USBやWi-Fiがその筆頭。1998年にリリースし、半透明のボディと多彩なカラーバリエーションで大ヒットした初代iMacは、シリアルポートやSCSI、ADBなどのインターフェースを廃止し、USBを全面的に採用。それまでもUSBを搭載したパソコンは存在したが、iMacの世界的普及により、各国の企業でUSBを採用した周辺機器が続々と開発されるようになり、現在に至るUSBの普及につながったといえる。

またWi-Fiも、その名前すら存在しなかった暫定規格の時代、無線LAN時代の到来を予期したAppleが、これも99年に発売されたノートパソコン、iBookの中にアンテナを内蔵したのが始まり。現在ではパソコンのみならず、誰もがスマートフォンでWi-Fiを利用する時代になっている。

生まれたばかりの先端技術を、最新機に搭載する理由とは。

iPadでパソコンのような操作を可能にする「Magic Keyboard」も、2020年5月に別売オプションで登場。同時発表のMacBook Airとほぼ同じ、打ちやすいキーボードとトラックパッドとを備える。

iPad Proに、LiDARを搭載することの意味。

ただ、そういう先端技術を採用する際、Appleはスペックよりもコストや使いやすさを重視する。初代のiPhoneに搭載されたカメラは、シャッターを切るのに1秒もかかっていたが、その代わり余計な設定はなかった。とにかくシャッターを切れば、どんなシーンでもある程度、きれいに撮れるカメラにすることにこだわったのだ。
新たにiPad Proに搭載されたLiDARも、自動運転車などに搭載されるものほど高スペックではない。だが、製品価格にほとんど影響を与えず、あの薄い本体に収まり、それでいて室内でも室外でも使えるという、絶妙なバランスがとれた仕様となっている。

しかし、前述の通り、Appleは先端技術を他社に先んじて採用し「この技術を使ってどんなことができるのか、開発者のみなさんも一緒に考えましょう」という姿勢を重要視している。そして、その技術を応用・進化させて新たな技術やソフトウエアを開発する技術者が、たくさん存在する。

現在、iPadはGPS機能を活用し林業や漁業など、意外な産業で多く使われている。LiDARに関しても、「こういう技術を待っていた!」という開発者や業界がきっと出てくる。今後、どんな派生機能やアプリが生まれるのか、LiDARの可能性は未知数といえるだろう。

アクセサリーやシステムアップデートが生み出す、新たな活用方法。

新型iPad Proに関してのもうひとつのトピックスが、2020年5月に発売が予定されているトラックバッド搭載の「Magic Keyboard」だ。これまでのカバー然としたキーボードと比べ、浮かんでいるように接続されるフローティングデザインに、とても洗練された印象を抱いた。フルサイズのキーボードはパンタグラフ構造も進化され、各キーの押し心地も改善されている。


iPad ProとMagic Keyboardはマグネットで吸着。あらかじめキーボードのヒンジにあるUSB-C端子を電源アダプターにつなげておけば、それだけで即・充電もスタートする。見やすい角度に調整でき、浮遊感が楽しめる点も魅力。写真はともに11インチのiPad ProにMagic Keyboardをつなげた例。Magic Keyboard 11インチ用¥34,980、12.9インチ用¥41,580(ともに税込)

また、トラックパッドを使った操作への対応方法も魅力的だ。従来のパソコンのマウス/トラックパッド操作のように、押したいボタンの上にカーソル(矢印)を厳密に合わせる必要がなくなった。ボタンに近づけるとカーソルが消え、代わりに自動的にボタンのひとつがハイライトされる。この状態でトラックパッドの指を左右に動かすと別のボタンが選べるため、より神経を使わずにボタン操作ができるのだ。

外出時はiPadならではの機動力を発揮しつつ、会社や自宅に戻ったら本体をMagic Keyboardにマグネットでパチッとハメてノートパソコンのようにして使うといった、2WAYの楽しみ方もできる。このキーボードに加え、1TBモデルの記憶容量をもつ仕様が登場したことも、MacBook Airの領域を侵食することとなった。私たちAppleファンにとって、どちらを選択するか、喜ばしくも実に悩ましい問題となりそうだ。

問い合わせ先/Apple Japan  www.apple.com/jp