町工場のリノベーションをきっかけに、東上野に新たな人の流れが生まれようとしている。

  • 写真・文:中島良平

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東上野のカフェ「ROUTE BOOKS」は、外も中も多くのグリーンで彩られている。オーナーで工務店「ゆくい堂」社長でもある丸野信次郎さんは、「暮らしの提案をするためのカフェの空間づくりにグリーンはハズせない大切な要素でした」と説明する。

町工場が並ぶ東東京の下町の一画で、3月28日と29日に「手づくり」をキーワードとするマーケットが開催される。昨年3月に第1回が開催され、活況を呈したROUTE COMMON crafters marketの第2回だ。

ROUTE BOOKSというカフェとその向かいの工務店のアトリエが会場となるユニークなこのイベント。出展条件は、「手づくり」であること。宙吹きでつくられる自由なフォルムのグラス、カスタムオーダーのカジュアルなレザーサンダル、さらにはアセテートやセルロイド樹脂のメガネに多肉植物の鉢植えなど、多様な品々が賑やかに並ぶ。フードマーケットには台東区のワイナリー(!)や焼菓子店、無農薬野菜の直売所まで。

ワークショップも鍛冶屋による鍛鉄指導で制作するアクセサリー、ろくろを用いた陶芸、草木染めの布と糸を用いたアクセサリーづくりなど多様なラインナップ。さらには、サニーデイサービスの曽我部恵一、シンガーソングライターの中山うりなどがライブに登場する。「暮らしには食も緑も気持ちいい空間も好きな音楽も必要」というオーナーである丸野信次郎さんの考えが、イベント構成に反映されている。そもそも「ゆくい堂」という工務店の代表である丸野さんがカフェを経営し、気の合う仲間たちと一緒にイベントを立ち上げるまでに活動が広がったきっかけは何なのだろう?

注文を受けてからハンドドリップで淹れたコーヒーと、近所の「GURUATSU」から仕入れた豆腐のマフィン。しっとりした食感と生地の甘味にドライイチジクの果実味が絶妙。

「ROUTE BOOKS」の家具や床材などはすべて、住宅を解体した際に出た廃材や廃棄される運命だったテーブルやソファ。釘を抜いたり傷んだ箇所を切り落としたり、補強をしたり、手間もコストもかかることを厭わずに味わい深い空間を仕上げた。

知り合いのアンティークショップが閉店する際に安値で購入したという味のあるカウンターに立つ丸野さん。

クラフターズマーケット第1回の様子を撮影したスライドショーから活況が伝わってくる

人が集まる場所をつくり、そこからコミュニティが生まれた。

ゆくい堂のアトリエでは、木工職人が空間のサイズにもテイストにもマッチする家具を手がける。

オーナーの丸野さんがおもに担当するのは溶接技術を駆使した鉄工。

奄美の徳之島出身の丸野さんは、高校を卒業してから紆余曲折を経て20歳で東京にやってきて、手っ取り早く現金を稼げる肉体労働として、建築現場のアルバイトをするうちに解体にも携わるようになった。出てくるのはまだまだ使えそうな床材や壁材、古家具などの廃棄物の数々。ものづくりが好きだった丸野さんは純粋にもったいないと感じ、経年で味の出た建材で何かをつくりたいという想いにも駆られた。そして1999年に創業したのが「ゆくい堂」。建物のリノベーションを専門とする工務店だ。東京に出てきて住み始めた墨田区を拠点に立ち上げ、より広く仕事をしやすい環境としてたまたま見つけた町工場の住所が東上野だった。

リノベーションする古い家で見つけたボロボロの机も、すべてバラして傷んでいる箇所を補修。椅子も弱った箇所を溶接し、革を張り直した。

「ギターのアンプが空間の雰囲気に合わなかったので、古い箱で作り直したんです。結構いい音鳴るんですよ。ここで使ってもいいですし、欲しい方がいらっしゃったら適当な値段でお譲りします」。

工務店で請ける仕事には、解体、大工、左官、電気、水道、塗装、ガラスなどの職人からクリーニング業者まで、12〜15業種ほどの職人が携わる。創業時から仕事をする大工の一人は台東区が拠点で、それ以外にも台東区、墨田区の職人が多い。アトリエを構えた場所が東上野だったのは、必然ともいえるだろう。

「アトリエに使える工場を見つけて、狭い道を挟んで向かい側にも廃工場があったのは本当に奇跡的でした。それがたまたま東上野でしたが、こういう物件との出会いはそうありません。ここは下谷神社の祭りに熱心なエリアなので、神輿をかつぐ人たちにお声がけしてバーベキューをやって仲良くなったり、いい具合に地元ともつながれていますし、ライブやクラフターズマーケットにきたお客さん同士が仲良くなって仕事をするようになったり、ある種のコミュニティが生まれつつあるような手応えは感じています」

ROUTE BOOKSやゆくい堂のアトリエでは、不定期にライブが開催される。憂歌団の木村充輝のライブ(写真)では100人超の「普通だったら東上野の工場なんかには無縁の人たち」が集まったことに丸野さんは手応えを感じた。

クラフターズマーケットでも数々のワークショップが開催されるが、日常的にROUTE BOOKS2階では陶芸のワークショップが開催されるなど、普段からカフェ営業に留まらずプログラムは多岐にわたる。

本業である工務店の仕事のイメージが伝わるように「ROUTE BOOK」の名でカフェを立ち上げ、廃材を生かしたこのテイストに惹かれる人たちが集まってきた。空き家となっていた同じビルの上のフロアには貸しアトリエを設置し、やはり趣旨に共感するクリエイターが集まってきた。SNSで無理矢理つながりを生むのではなく、遊びに来たくなるような場所づくりをしたことで、自然とコミュニティが発生した。そこで開催されるクラフターズマーケットには、ある種ハードコアな職人気質のクリエイターから、子どもたちに向けて手づくりの楽しさを伝える向きまで、「手づくり」をキーワードに出展者が集結する。街の景色が変わりつつあるその息吹をこのマーケットで直に感じ取ってほしい。

ROUTE COMMON
crafters market vol.2

開催期間:2020年3月28日(土)〜3月29日(日)
※新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために延期の可能性あり。
開催場所:ROUTE 89 BLDG./ROUTE COMMON, UENO
東京都台東区東上野4-14-3
TEL:03-5830-2666
開場時間:【3月28日】Market 10時〜17時、Workshop 10時〜17時、Live 11時〜18時15分 【3月29日】Market 10時〜17時、Workshop 10時〜17時、Live 11時〜17時15分
入場料:Market無料、WorkshopとLiveは企画内容と出演者によって異なるので要確認
https://route-books.com/market/