イサム・ノグチや剣持勇らが追い求めた、モダンデザインの歩みを紐解く。

  • 写真・文:はろるど

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淡い明かりを放つイサム・ノグチの『あかりシリーズ』。ノグチは岐阜の伝統的な提灯に着想を得て、和紙と竹による照明彫刻の『あかり』を制作した。

戦前から戦後にかけて、合理的な機能美をもつモダンデザインを追い求めたデザイナーたちがいる。彼らは学び合いながら、日本の生活様式に馴染む家具や照明、建築などを数多くつくり出した。

パナソニック汐留美術館で開催中の『モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展』では、主に1930年から1960年代にかけて活動したブルーノ・タウト、アントニン&ノエミ・レーモンド夫妻、井上房一郎、剣持勇、ジョージ・ナカシマ、そしてイサム・ノグチという7名の建築家やデザイナーのプロダクトを紹介。工芸品、家具、建築図面、模型など約160点もの作品と資料にて、どのように日本でモダンデザインが発展したのかについて掘り下げている。

彼らの仕事を単に追うのではなく、互いに与えた影響についても注目したい。33年に来日したタウトは、高崎で工芸のデザインを指導。同地の実業家だった井上は軽井沢と銀座に出店した家具工芸店「ミラテス」にて、タウトの工芸品を販売するなどして交流を深めていった。また井上はレーモンド夫妻と親交をもちながら建築にも心酔し、夫妻の自邸をそのままコピーした『旧井上房一郎邸』を建てる。そして剣持も、タウトから家具デザインの指導を受けたひとりだ。戦後、日本固有のデザインのあり方を問うべく「ジャパニーズ・モダン」を提唱した剣持は52年、アメリカから訪ねてきたノグチに制作場を提供しつつ、竹の椅子を共同で制作している。さらに民具連に参加していたことで知られ、日系二世のアメリカ人であるナカシマも、レーモンドの事務所に5年勤めていた。デザイナーらの関係がつながっていくにつれ、そこに生まれた人間ドラマを目の当たりにするように思える。

全員が主人公で、誰一人欠けてはならない存在だった彼らだが、その人生はバラ色だったわけではない。第二次世界大戦中にノグチはアメリカで強制収容所に入り、ナチスに迫害されていたタウトはトルコで客死している。国内でも日中戦争以降、資材が統制され、制作の環境は制限された。しかしそれでも戦後、モダンデザインの精神は受け継がれ、人々の暮らしを大きく変えていった。彼らがデザインの未来を切り開くために見ていた「夢」を、追体験してほしい。

ジョージ・ナカシマの『グラスシートチェア』などの椅子が並ぶ展示コーナー。ナカシマは木を単なる素材ではなく、自然の一部として呼び交わす霊的存在、つまり「木霊」と捉え、家具を制作した。

アントニン・レーモンド『シュリ・アウロビンド・アシュラム宿舎透視図』 1934〜42年 インド東海岸、ポンディシェリーに建設された鉄筋コンクリート造の修道院宿舎。レーモンドは1938年から家族で当地に移り住み、技術指導を行いながら設計に当たった。レーモンドは絵画や作陶にも造詣が深く、本作でも水彩の豊かな質感に目を奪われる。

ブルーノ・タウトのデザインによる『煙草入れ』や『ペーパーナイフ』。喫煙セットの水彩デッサンも味わい深い。モダンデザインが生まれた背景には、産業の近代化に伴って大量生産が可能になったことにあるが、デザイナーらは必ずしも工業生産に頼るのではなく、日本古来の素材や手仕事を活かすことが重要だと考えていた。

柱・梁・床で構成された日本の伝統的な空間をモチーフにした会場も見どころ。2019年度日本建築学会賞を受賞した前田尚武が会場デザインを手がけた。

『モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展』

開催期間:2020年1月11日(土)~3月22日(日)
開催場所:パナソニック汐留美術館
東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時(2月7日、3月6日は20時まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:水
入場料:一般¥800(税込)
https://panasonic.co.jp/ls/museum