ブラックホールという表現はしばしば比喩的に用いられるが、H.モーザーが2018年に初めて時計のダイヤル全体に使用したベンタブラック®は、まさに光の99.965%を吸収するという。1㎠に約1億個ものカーボンナノチューブが深い森のように密集。表面に当たった光は捕えられて逃げることができないため、地球上で最も黒い物質と呼ばれる。この漆黒の極致ともいえるダイヤルに、前面に支えのブリッジをもたないフライングタイプのトゥールビヨンを組み合わせた新作が、「エンデバー・トゥールビヨン コンセプト ベンタブラック®」だ。
時針と分針だけで、ロゴもインデックスもない究極のミニマルに、最高峰とされる複雑機構を対比的に組み合わせたモデルであり、H.モーザーらしいこだわりが凝縮されている。たとえば優れた絵画はサインがなくても作家がわかるという考えから、ブランドロゴを撤廃。さらに、ダイヤルをピュアに堪能できるようインデックスも取り去った2針のコレクションが「コンセプト」だ。H.モーザーといえば、美しいグラデーションの「フュメ」(仏語で煙の意味)ダイヤルで知られている。その自信と誇りから生まれたスタイルなのだが、「ベンタブラック®」も他にないエクスクルーシヴな新ダイヤルとして追加されたのである。
ダイヤルだけでなく、ムーブメントをヒゲゼンマイから製造する本格的なマニュファクチュールであり、このトゥールビヨンも例外ではない。自社設計のダブルヘアスプリングを搭載。テン輪をふたつのヒゲゼンマイが挟み込んで相互に伸縮するため、等時性などが向上。航空宇宙分野で利用されている剛性の高いアルミニウムをガンギ車などのパーツに採用しており、真鍮よりも軽量なので、動作も長期的に安定するという。
トゥールビヨン・キャリッジのブリッジなどにブラックPVDコーティングが施されており、これが塗料の“ブラックホール”「ベンタブラック®」のシグネチャーとなる。ちょっと見ではシンプルなトゥールビヨンだが、細かく解説するとキリがないこだわりが詰まったモデルなのである。
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